神経回路形成過程の軸索先端部に現れる成長円錐は、細胞外に呈示される多彩な軸索ガイダンス因子の濃度勾配に応じて自身の運動性を変化させ、軸索を正しい標的まで牽引する。研究代表者はこれまでに軸索ガイダンスの分子機構を解析し、Ca2+シグナルにより誘起される成長円錐片側でのエクソサイトーシスとエンドサイトーシスのバランスによって軸索の旋回方向(誘引/反発)が決定されることを解明してきた。また、Ca2+下流においてエンドサイトーシスの促進と抑制を担う分子としてそれぞれカルシニューリンとCdk5を同定した。本課題では、カルシニューリンとCdk5により拮抗的にリン酸化制御を受けるエンドサイトーシス調節因子としてPIPKIgamma90に着目した。PIPKIgamma90は、形質膜上のイノシトールリン脂質PI4Pをリン酸化しPIP2を合成する酵素である。PIPKIgamma90はエンドサイトーシス調節アダプター因子AP2と直接結合することでのキナーゼ活性を上昇させるため、本年度は、Ca2+依存的な軸索ガイダンスに対するPIPKIgamma90-AP2間結合の必要性を検討した。AP2サブユニットの一つであるbeta2-adaptinのearドメイン内の一アミノ酸変異(K808A)によりPIPKIgamma90との結合を阻害したところ、Ca2+依存性の成長円錐の誘引には効果が無く、その一方で反発を消失させた。また、PIP2可視化プローブである蛍光タンパク質標識PLCdelta-PHを用いて成長円錐内でのPIP2量の変動を全反射蛍光顕微鏡により観察したが、現在のところCa2+シグナルに応じた顕著なPIP2シグナルの増減は観察されていないため、今後は蛍光プローブの性能の改良等を試みて行く。
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