研究課題
基盤研究(C)
本研究に用いたDmrta2 遺伝子改変マウスは、Dmrta2 遺伝子のexon2 領域をloxP 配列で挟む構築とすることで、Cre リコンビナーゼの活性依存的に遺伝子機能を欠損させることができる。以前に行った予備実験から、これらDmrta2 の条件的遺伝子欠損マウスを,Dmrt3 遺伝子欠損マウス、続いて全身にCre リコンビナーゼを発現するマウスと交配させる事で得られたDmrt3/Dmrta2 二重変異マウスは、大脳領域の背腹領域化における顕著な異常を示す事が明らかとなっている。そこで、これら完全二重変異マウスの表現型が、大脳発生のどの時期におけるDmrt3,Dmrta2 遺伝子の機能欠損の結果なのかを明らかにする目的で、胎生10.5日以降の神経幹細胞特異的にCre リコンビナーゼを発現するNestin-Creトランスジェニックマウスを用いて解析した。得られた条件的二重変異体マウス胚は、完全二重変異マウスとは異なり大脳の大きさや形態に顕著な異常は認められなかった。しかしながら、大脳背側部に存在する神経前駆細胞において、野生型では認められない腹側部前駆細胞特異的な遺伝子であるGsx2の顕著な発現上昇が認められた。これまでの多くの研究報告から、マウス大脳領域における背腹領域の決定は胎生9.5日前後においてShhシグナルとGli3シグナルのバランスにより決定され、その後はこれらの因子が無くとも領域が維持されることが明らかとなっている。しかしながら、本研究により示されたDmrt3/Dmrta2の条件的変異体における背腹軸の異常は、発生中期以降(胎生10.5日以降)においても背腹領域化を恒常的に維持する分子機構が存在することを示しており、その中核となる分子がDmrt3/Dmrta2であることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、異なる発生段階におけるDmrt3/Dmrta2の必要性を明らかにすることができた。その結果、これまで知られていなかった哺乳類大脳発生における背腹領域の決定・維持機構における新規なメカニズムを提案することができた。それに加えて、これら分子が制御する下流因子の候補として、ホメオボックス転写因子の1つであるGsx2を同定することができた。よって本研究はおおむね順調に進展していると判断することができる。
現在までの研究が当初の計画通り進展しているため、今後は変異マウスの表現系解析から次世代シーケンサーを利用した遺伝子発現ネットワーク解析へと段階的にシフトする。それにより、Dmrt3/Dmrta2が制御する神経幹細胞の領域維持機構を明らかにする。それに加えて、初年度の研究成果から、Dmrt3/Dmrta2がこれまで知られていなかった神経幹細胞のアイデンティティーを継続的に維持するメカニズムに関与することが明らかとなった。そこで、これまでに知られている神経幹細胞の領域化を決定する分子経路の中核であるShhシグナリングとの関連性を、Dmrt3,Dmrta2,Shhの三重変異体の表現系を解析することによりその関連性を明らかにし、細胞のアイデンティティーを"決定"するメカニズムと"維持"するメカニズムの相同性と相違性を解明する。
該当なし
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