本研究は、基本味に対する大脳味覚野の空間活動パターン,大脳味覚野付近の大脳血管網や軸索投射の形態的・機能的なネットワークを包括的に検討し、味覚中枢情報処理機構の解明を目的とする。今年度は,大脳味覚野への軸索投射の形態的・機能的ネットワークを検討するために,超高磁場MRIの拡散強調画像法による神経線維束の走行や安静時MRIによる機能的なネットワークの計測を試みた。そのために,ラット大脳全体の拡散強調画像やEPI画像を取得するための撮像条件の設定を行った。また,それらのデータを解析するにあたり,脳機能形態解析ソフトのセットアップを行った。しかし,in vivo測定ではラットの生理状態(主に呼吸による体動)および撮像条件や使用できるコイルの問題により,詳細な検討を行うまでには至らなかった。 研究期間全体を通じた成果として(1)光イメージングを用いてラットに味覚刺激を行ったところ,左右両半球の島皮質付近にある嗅静脈の背側と中大脳動脈の吻側と尾側に活動が得られた。つまり,嗅静脈と中大脳動脈の交点は大脳味覚野の指標となる。(2)この交点の位置を詳しく検討するために,MRIの血管造影法により測定を行った。その結果、左半球の交差位置は、右半球の交差位置よりも0.4mm程度吻側にあることが明らかとなった。以上の成果から,ラット大脳味覚野の位置が左右半球で非対称に位置することが推測される。左右半球の機能差はヒトではよく知られていることであるが,齧歯類にも左右半球機能の非対称性が存在すると示唆される。これまでの味覚研究では,頭蓋骨の縫合部を基準として島皮質に微小電極を刺入し味覚刺激時の神経活動を測定する。本研究成果から,大脳外部に電極刺入の基準点を設けた位置設定では,左右半球で異なる機能をもった位置に電極を刺入することになり,異なる活動を得る可能性があることを示している。
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