研究課題/領域番号 |
24500397
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
有村 奈利子 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所・病態生化学研究部, 流動研究員 (20420375)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経科学 / 大脳基底核 / 神経回路 |
研究概要 |
大脳基底核と運動前野は、動作決定から運動の準備実行まで、幅広い運動機能の制御に関与している。これら領域はループ回路を形成して密接に連携していると考えられるが、現状では、両領域の研究は独立してなされるものが多く、領域間の機能連関の実態は依然として不明である。私は、行動課題を遂行しているサルの基底核の出力部である淡蒼球と運動前野からニューロン活動を記録し、これらの間の機能連関を検討してきた。この課題では、左または右に到達するといった「動作概念」を指示として与えて、引き続き呈示された選択肢刺激にもとづいて「実際の動作」を決定、実行することができる。これまでの研究で、「動作概念」や「実際の動作」に選択的に反応する神経活動は、運動前野と淡蒼球において共通に見出されるのに対し、「動作概念」を「実際の動作」へ変換する過程は、運動前野で顕著であったが淡蒼球においては殆ど見出されないこと等を見出した。これらの結果から、運動前野が基底核に先行して動作概念を実際の運動に反映させる過程に重要な役割を担うことが示された。一方基底核の損傷により内発的な行動の遂行に障害が出ることが報告されており、内発性行動における基底核の機能を明らかにすることが必要と考えられた。基底核の機能を検討する為にオプトジェネティクスの技術の立ち上げを行った。光刺激に応答して膜電位を変化させるチャネルロドプシンやハロロドプシンを、アデノ随伴ウイルスとレンチウイルスに組み込んだものを使用した。これまでに、hSynapsin1やCaMKIIプロモーターが挿入されたウイルスを精製し、高タイターのウイルス精製法を確立した。また、ラット一次運動野にウイルス液を注入し、刺激により四肢の動きを制御することに成功した。これらのツールを用いて、運動前野に対する基底核の主要な機能について検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
24年度の研究計画の一つとして、サルに対する内発的行動を含む実験課題の訓練を挙げていたが研究施設の移動が原因となり、サルへの訓練が行われていないことが、達成度を低くした主たる原因である。本研究課題の”光刺激操作を用いた内発性動作における基底核ー運動前野ネットワークの機能解析”においては、その基本的回路はげっ歯類でも保存されており、マウスを使用した研究としても遂行は可能であるため、今後はサルと平行してマウスを使用した基底核の機能的回路も検証してゆく。光刺激を利用して基底核の機能の制御を行うために、オプトジェネティクスによる行動制御の系を立ち上げた点については順調に研究が進展しており、今後の研究の重要なツールとなり得るため、研究は進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
パーキンソン病の前屈姿勢異常や振戦は大変多く見られる症状であり、歩行や食事動作など日常生活動作に与える影響が大きい。パーキンソン病の病理として黒質、青斑核の神経細胞脱落が報告されており、これらによる大脳基底核ひいては大脳皮質への入力異常が原因と考えられている。従って、大脳基底核と大脳皮質の異常な入出力が前屈姿勢異常や振戦に大きく関与していると考えられるが、基底核と大脳皮質の機能連関と分子メカニズムについては不明な点が多い。本研究では姿勢保持異常や振戦を呈するマウスを使用し、この病態における基底核と大脳皮質の役割及び分子メカニズムを明らかにする。野生型と比較し、変異型マウスの異常な神経活動について検討する。さらに、オプトジェネティクスの技術を用いて、神経活動を変化させ、マウスの行動の変化を確認する。この実験において、行動課題依存的に神経活動が変化した神経細胞のある箇所に、光刺激により膜電位を変化させる光駆動性チャネル及びポンプ(チャネルロドプシン、ハロロドプシン)を発現させ、神経活動の抑制や増強を行う。これらの実験を行うことで、姿勢保持や振戦における基底核と大脳皮質の機能連関を明らかにする。また、本マウスの疾患原因遺伝子の分子機能の解析も行う。具体的には、原因遺伝子の分子間相互作用を知るために、マウス脳抽出液中から免疫沈降法を用いて結合分子を単離し、液体クロマトグラフィーと質量分析によるショットガン解析を試みる。また、in vitro結合実験や変異型遺伝子を用いた結合実験を行う。さらに、遺伝子発現部位を免疫組織学的に検討する。特にGAD67-GFPやVglut-2-GFPなどのノックインマウスと交配し、興奮性、及び抑制性神経細胞における原因遺伝子の発現とその機能を検討する。相互作用分子についても、同交配マウスを用いて、原因遺伝子との相関関係を免疫組織学的に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度に申請した研究費の一部(約160万)を25年度に繰り越しました。上記の通り研究施設の移動を介したことにより、移動後に新たな研究環境において機器及び試薬、消耗品の大量購入が必要であると判断したために繰り越しを行いました。また、昨年に出産を経て育児のため国外出張が困難となったため、研究成果の発表は国内の学会を対象とし、学会参加のための旅費を減じました。研究経費の妥当性を考慮し、本研究課題の遂行に必要な研究費を計上しました。使用予定金額:230万円(使用予定内訳、実験動物30万円、消耗機器100万円、薬品20万円、免疫組織学的試薬50万円、旅費10万円、その他20万円)
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