基底核の淡蒼球と運動前野の機能連関に関して解析を進める為、パーキンソン病などでみられる姿勢異常や振戦などの不随意運動異常のみられるマウスに着目した。Dscamの遺伝子発現が損なわれている自然発症マウスDscamdel17/del17において、中脳が肥大し細胞移動に異常が見られる事を見いだした。さらに、Dscamがいくつかの細胞内分子を介して細胞形態と接着に関与する分子群と相互作用することを見出している。具体的には以下の通りである。Dscamdel17/del17マウスの中脳上丘・下丘では、抑制性神経細胞がクラスターを形成していた。EdUで増殖中の細胞をラベルすると、神経細胞移動の異常が確認できた。エレクトロポレーション法を用いた実験により、Dscamをノックダウンすると細胞移動が損なわれ、Dscam過剰発現では、細胞移動が促進された。これらの結果から、パーキンソン病様の表現型を示すマウスでは、神経細胞移動異常がみられる事が明らかとなった。Dscamは中枢神経系のすべてに発現している事から、おそらく大脳基底核や運動野においても神経細胞移動に関与していると考えられる。この細胞移動異常は、適切な神経突起の伸長を困難にし、従って、シナプス形成や回路網形成に重要な異常をもたらすと考えられた。今後は既に立ち上げているオプトジェネティクスの手法を用いて、異常な回路網形成によりどのような入力が行われているか、またそれをどのように止める事ができるかを検討し、大脳基底核―運動野の連関の研究につなげたい。
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