• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2012 年度 実施状況報告書

選択的タンパク質分解を介したブレインサイズ決定機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 24500398
研究種目

基盤研究(C)

研究機関独立行政法人国立精神・神経医療研究センター

研究代表者

若月 修二  独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第五部, 室長 (00378887)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワードユビキチンプロテアソームシステム / 大脳皮質形成 / タンパク質分解 / リン酸化シグナル
研究概要

研究代表者のグループは末梢神経傷害後に神経繊維を構成する軸索の持ち主である神経節において発現が上昇する遺伝子のスクリーニングを行い,RINGフィンガー領域にE3ユビキチンリガーゼ活性を持つ新規タンパク質zinc and ring finger 1 (ZNRF1) を同定した.その後の解析から,ZNRF1は軸索変性過程においてセリン・スレオニンキナーゼAKTをUPS依存的に分解し,AKTおよびその下流シグナルを軸索から失わせることによって軸索変性の進行を促進することが明らかとなった (Wakatsuki S. et al. Nat Cell Biol 2011).ZNRF1は神経細胞全般に発現を認めるが,詳細な組織学的解析により,脳室帯など発生過程初期の神経細胞,ならびに神経前駆細胞に強く発現することから,神経前駆細胞の分裂,移動,分化など神経発生への寄与が示唆されていた.Cre/loxPシステムにより野生型ZNRF1 を過剰発現できるTgマウスを作出し,Nestin-Cre Tgマウスとの掛け合わせによりZNRF1を神経細胞全般に発現させたところ,顕著な大脳皮質形成異常が認められた.これらのことから,ZNRF1を起点としたシグナルカスケードが大脳皮質形成の制御に関与する可能性が強く示唆された.本研究計画では,この可能性に関して実験的検証を与えることにより,タンパク質分解制御の観点から大脳皮質形成過程のさらなる理解に貢献する新たな知見を得ることを目的として開始された.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

計画を進めていく上で,これまでに次に示すような研究結果を得ている.
動物個体を用いた解析により明らかとなったこととして,① マウス胚大脳皮質の神経前駆細胞に対してZNRF1遺伝子を過剰発現させることにより,大脳皮質形成,特に神経細胞が構築する層構造の形成が異常になった.ZNRF1の分子生化学的解析により明らかとなったこととして,② AKTがプロテアソーム依存的に分解されることにより, Glycogen synthase kinase 3Bが活性化した. ③ 酸化ストレスを与えて細胞内を酸化条件にすることにより,チロシンリン酸化されたZNRF1の存在量が相対的増加するとともに,ユビキチンリガーゼ活性が亢進した.④ 発生段階の神経細胞にZNRF1を過剰発現させたトランスジェニックマウスは小頭症の症例とよく似た所見を示した.小頭症の原因遺伝子に関する報告例は有糸分裂に直接関連する8種のみであり,有糸分裂の異常が細胞数の減少を来たし,結果として小頭症の症状に繋がるとされる.ZNRF1の過剰発現は培養細レベルでは細胞増殖には影響を与えないことから,野生型ZNRF1 Tgマウス系統の表現型は有糸分裂の異常とは別の分子メカニズムによって生じていると考えられた.

今後の研究の推進方策

これまでの研究成果をもとに,本年度はZNRF1を起点としたUPS依存的なタンパク質分解機構が大脳皮質形成においてどのような生理的役割を担うのかを明確にするため以下の実験を行う.ZNRF1の分子生化学的解析により,① ZNRF1がどのようなメカニズムで活性化されるのかを明らかにする.ZNRF1を活性化する刺激の主要な候補としては前述したように酸化ストレス,広義には細胞内の酸化・還元レベルの変化が予想されるので,細胞内酸化・還元レベルの変化とZNRF1のユビキチンリガーゼ活性化との関連を明らかにするとともに,細胞内酸化・還元レベルの変化が大脳皮質形成過程のどの局面で生じるのか,などについても併せて明らかにする.また,動物個体レベルの解析により,② 子宮内エレクトロポーレーション法を用いて, ZNRF1を起点としたシグナルカスケードのそれぞれの分子を過剰発現,あるいはRNA干渉によって発現抑制することにより,大脳皮質形成に生じる影響を,遺伝子導入した細胞を追跡することで明らかにする.③ 大脳形成異常を呈する野生型ZNRF1 Tgマウス系統の発生過程を詳細に調査するとともに,ユビキチンリガーゼ活性を欠くZNRF1変異体Tgマウスについても同様に調査し,表現型とユビキチンリガーゼ活性との関連を明らかにする.
これらの研究によって得られる結果を総合的に評価することにより,タンパク質分解制御の観点から大脳皮質形成の分子メカニズムに関する新たな知見を得ることを目指す.

次年度の研究費の使用計画

効率的な運用や有利な支出を心がけた結果,節約となった.
残金は,次年度使用計画に従って適切に使用する.

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2013 2012 その他

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] ユビキチン・プロテアソーム系によって制御される軸索変性の分子メカニズム2012

    • 著者名/発表者名
      若月修二,荒木敏之
    • 雑誌名

      生化学

      巻: 84 ページ: 463-471

  • [学会発表] 軸索変性の分子細胞生物学的解析とその治療応用に関する研究2013

    • 著者名/発表者名
      若月修二
    • 学会等名
      新学術領域研究「脳内環境:恒常性維持機構とその破綻」班会議
    • 発表場所
      京都大学医学部芝蘭会館・稲盛ホール(京都市)
    • 年月日
      20130116-20130117
  • [学会発表] 糖化タンパク質が関与する末梢神経ミエリン化調節機構の解明と脱髄性疾患への治療応用2012

    • 著者名/発表者名
      萩原裕子,齋藤文典,若月修二,荒木敏之
    • 学会等名
      第35回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      マリンメッセ福岡(福岡市)
    • 年月日
      20121211-20121214
  • [学会発表] 代謝型グルタミン酸受容体を介したシュワン細胞の増殖・分化制御機構2012

    • 著者名/発表者名
      齋藤文典,若月修二,荒木敏之
    • 学会等名
      第35回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      マリンメッセ福岡(福岡市)
    • 年月日
      20121211-20121214
  • [学会発表] 軸索変性過程におけるチロシンキナーゼJAKの機能解析2012

    • 著者名/発表者名
      山﨑昴彦,若月修二,荒木敏之
    • 学会等名
      第35回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      マリンメッセ福岡(福岡市)
    • 年月日
      20121211-20121214
  • [学会発表] Role of ubiquitin proteasome system in axon degeneration: ZNRF1 E3 ubiquitin ligase promotes Wallerian degeneration by degrading AKT to induce GSK3B-dependent CRMP2 phosphorylation.2012

    • 著者名/発表者名
      若月修二,荒木敏之
    • 学会等名
      Neurodegenerative diseases conference in Cold Spring Harbor Laboratory
    • 発表場所
      Cold spring harbor laboratory(ニューヨーク・アメリカ合衆国)
    • 年月日
      20121127-20121201
  • [学会発表] Roles of ubiquitin proteasome system in axon degeneration.2012

    • 著者名/発表者名
      若月修二
    • 学会等名
      Joint Symposium of Max Planck Institute of Psychiatry and National Institute of Neurology and Psychiatry.
    • 発表場所
      Castle Ringberg(ミュンヘン・ドイツ連邦共和国)
    • 年月日
      20121004-20121006
    • 招待講演
  • [学会発表] Mechanism of axonal degeneration and its possible therapeutic application against neurological disorders.2012

    • 著者名/発表者名
      荒木敏之,若月修二
    • 学会等名
      第55回日本神経化学会大会シンポジウム
    • 発表場所
      神戸コンベンションセンター(神戸市)
    • 年月日
      20120929-20121002
  • [学会発表] 軸索変性の分子細胞生物学的解析とその治療応用に関する研究2012

    • 著者名/発表者名
      若月修二
    • 学会等名
      新学術領域研究「脳内環境:恒常性維持機構とその破綻」班会議
    • 発表場所
      TKPガーデンシティ仙台(仙台市)
    • 年月日
      20120723-20120724
  • [備考] 神経軸索変性を制御する新しい分子メカニズムを解明

    • URL

      http://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r5/achivement/201111_2.html

URL: 

公開日: 2014-07-24  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi