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2013 年度 実施状況報告書

選択的タンパク質分解を介したブレインサイズ決定機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 24500398
研究機関独立行政法人国立精神・神経医療研究センター

研究代表者

若月 修二  独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第五部, 室長 (00378887)

キーワード神経科学 / 大脳皮質形成 / タンパク質分解 / リン酸化シグナル / ユビキチンプロテアソームシステム
研究概要

研究代表者のグループは末梢神経傷害後に神経繊維を構成する軸索の持ち主である神経節において発現が上昇する遺伝子のスクリーニングを行い,RINGフィンガー領域にE3ユビキチンリガーゼ活性を持つ新規タンパク質zinc and ring finger 1 (ZNRF1) を同定した.その後の解析から,ZNRF1は軸索変性過程においてセリン・スレオニンキナーゼAKTをUPS依存的に分解し,AKTおよびその下流シグナルを軸索から失わせることによって軸索変性の進行を促進することが明らかとなった (Wakatsuki S. et al. Nat Cell Biol 2011).ZNRF1は神経細胞全般に発現を認めるが,詳細な組織学的解析により,脳室帯など発生過程初期の神経細胞,ならびに神経前駆細胞に強く発現することから,神経前駆細胞の分裂,移動,分化など神経発生への寄与が示唆されていた.Cre/loxPシステムにより野生型ZNRF1 を過剰発現できるTgマウスを作出し,Nestin-Cre Tgマウスとの掛け合わせによりZNRF1を神経細胞全般に発現させたところ,顕著な大脳皮質形成異常が認められた.これらのことから,ZNRF1を起点としたシグナルカスケードが大脳皮質形成の制御に関与する可能性が強く示唆された.本研究計画では,この可能性に関して実験的検証を与えることにより,タンパク質分解制御の観点から大脳皮質形成過程のさらなる理解に貢献する新たな知見を得ることを目的として開始された.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

計画を進めていく上で,これまでに次に示すような研究結果を得ている.
動物個体を用いた解析により明らかとなったこととして,① マウス胚大脳皮質の神経前駆細胞に対してZNRF1遺伝子を過剰発現させることにより,大脳皮質形成,特に神経細胞が構築する層構造の形成が異常になった.
ZNRF1の分子生化学的解析により明らかとなったこととして,② AKTがプロてテアソーム依存的に分解されることにより, Glycogen synthase kinase 3Bが活性化した. ③ 酸化ストレスを与えて細胞内を酸化条件にすることにより,チロシンリン酸化されたZNRF1の存在量が相対的に増加するとともに,ユビキチンリガーゼ活性が亢進した.
ZNRF1は細胞内ROS産生を介して活性化する,上皮細胞増殖因子受容体などのチロシンキナーゼによって直接リン酸化された.
④ 発生段階の神経細胞にZNRF1を過剰発現させたトランスジェニックマウスは小頭症の症例とよく似た所見を示した.小頭症の原因遺伝子に関する報告例は有糸分裂に直接関連する8種のみであり,有糸分裂の異常が細胞数の減少を来たし,結果として小頭症の症状に繋がるとされる.ZNRF1の過剰発現は培養細レベルでは細胞増殖には影響を与えないことから,野生型ZNRF1 Tgマウス系統の表現型は有糸分裂の異常とは別の分子メカニズムによって生じていると考えられた.

今後の研究の推進方策

これまでの研究成果をもとに,本年度はZNRF1を起点としたUPS依存的なタンパク質分解機構が大脳皮質形成においてどのような生理的役割を担うのかを明確にするため以下の実験を行う.
培養細胞を用いた実験として,① ZNRF1のリン酸化に関わるチロシンキナーゼの活性制御には細胞内ROS産生が関与する.細胞内ROSの産生源としてはミトコンドリア電子伝達系とNADPHオキシダーゼが挙げられるので,それぞれの遺伝子の過剰発現やRNA干渉により発現抑制させた場合のZNRF1のチロシンリン酸化,AKTのユビキチン化を調べ,細胞内ROS産生に関わる酵素を明らかにする.
動物個体を用いた実験として,② 子宮内エレクトロポーレーション法を用いて, ZNRF1を起点としたシグナルカスケードのそれぞれの分子を過剰発現,あるいはRNA干渉によって発現抑制することにより,大脳皮質形成に生じる影響を,遺伝子導入した細胞を追跡することで明らかにする.
③ 大脳形成異常を呈する野生型ZNRF1 Tgマウス系統の発生過程を詳細に調査するとともに,ユビキチンリガーゼ活性を欠くZNRF1変異体Tgマウスについても同様に調査し,表現型とユビキチンリガーゼ活性との関連を明らかにする.
これらの研究によって得られる結果を総合的に評価することにより,タンパク質分解制御の観点から大脳皮質形成の分子メカニズムに関する新たな知見を得ることを目指す.

次年度の研究費の使用計画

効率的な運用や有利な支出を心がけたら,結果的に節約になったため.
平成26年度の研究計画に沿って適切に使用する.

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2014 2013 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)

  • [雑誌論文] Neuregulin-1/glial growth factor stimulates Schwann cell migration by inducing α5β1 integrin–ErbB2–focal adhesion kinase complex formation.2014

    • 著者名/発表者名
      Wakatsuki, S., Araki T., Sehara-Fujisawa A.
    • 雑誌名

      Genes Cells

      巻: 19 ページ: 66-77

    • DOI

      1111/gtc.12108

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Na+/H+ exchangers induce autophagy in neurons and inhibit polyglutamine-induced aggregate formation.2013

    • 著者名/発表者名
      Togashi, K, Wakatsuki, S, Furuno, A, Tokunaga, S, Nagai, Y, Araki, T.
    • 雑誌名

      PLoS One

      巻: 8 ページ: e81313

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0081313.

    • 査読あり
  • [学会発表] 神経変性におけるオートファジー誘導の分子メカニズム2013

    • 著者名/発表者名
      若月修二
    • 学会等名
      第7回オートファジー研究会
    • 発表場所
      ヤマハリゾートつま恋・掛川(静岡)
    • 年月日
      20131219-20131221
  • [学会発表] 糖化タンパク質が関与する末梢神経ミエリン化調節機構の解明2013

    • 著者名/発表者名
      萩原裕子,齋藤文典,若月修二,荒木敏之
    • 学会等名
      第35回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      神戸ポートアイランド・神戸(兵庫)
    • 年月日
      20131203-20131206
  • [学会発表] GSK3B Activity Affects Mitochondrial Functions and Autophagy during Wallerian Degeneration.

    • 著者名/発表者名
      Toshiyuki Araki and Shuji Wakatsuki
    • 学会等名
      International Symposium on Mitochondria 2013/The 13th Conference of Japanese Society of Mitochondrial Research and Medicine
    • 発表場所
      六本木アカデミーヒルズ49・東京
  • [学会発表] GSK3Bが制御する軸索変性の分子メカニズムとミトコンドリア機能

    • 著者名/発表者名
      若月修二,荒木敏之
    • 学会等名
      第86回日本生化学会年会シンポジウム「ミトコンドリア新機能と破綻による疾患」
    • 発表場所
      パシフィコ横浜・横浜(神奈川)

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公開日: 2015-05-28  

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