研究課題/領域番号 |
24500399
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
田谷 真一郎 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所・病態生化学研究部, 室長 (60362232)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | てんかん / 神経科学 / 精神遅滞 |
研究概要 |
イハラてんかんラット(IER)は、原因不明の自然発症ラット突然変異体である。また、生後2ヶ月までは明らかな発育遅延が認められ、自発運動の低下・記憶学習機能の不全などの精神発達障害が見られる。このIERをてんかんのモデル動物として解析することで、てんかん発症の分子メカニズムを明らかにする。これまでに私共は、IERの原因遺伝子を同定することに成功し、遺伝子名をEpi-IERとした。そして、IERでEpi-IERのゲノムを調べた結果、イントロン上にSNPを見出した。このSNPにより、Epi-IERは転写の際にスプライシングに異常が生じ、発現が著しく低下することを明らかにした。そこで、IERでみられる神経細胞の形態異常がEpi-IERの過剰発現でレスキューできるか検討した。 IER由来の海馬初代培養神経細胞にEpi-IER遺伝子を導入し、樹状突起の伸長や分岐を観察した結果、IERでみられる神経細胞の樹状突起の伸長阻害・分岐抑制はEpi-IERの過剰発現でレスキューできることを見出した。従って、IERの神経細胞の形態異常がEpi-IERの発現低下だけで説明できることを明らかにした。さらに、IERの扁桃体を詳細に解析した。免疫染色やゴルジ染色により、扁桃体の抑制性神経細胞の形態異常と局在異常を見出した。さらに、扁桃体のIPSC測定により、抑制性神経の機能低下を見出した。また、扁桃体キンドリングにより、容易にてんかん発作を惹起することを見出した。IERでみられる神経細胞の形態異常がEpi-IERの発現低下だけで説明できると考えられる。今後は、IERの脳への色素を注入することで、ニューロサーキットの形成機構を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)イハラてんかんラット(IER)でみられる異常部位の特定とてんかんの関連 これまでに、てんかん患者において海馬での異常なシナプス活動が報告されている。申請者らは、IERの一部の神経細胞に形態学的な異常がみられることを見いだしている。本研究期間では、特に海馬領域に着目して研究を遂行する。本年度は、組織レベル、海馬初代培養神経細胞レベルでの解析を行い、より詳細な形態異常を見出すことに成功した。 (2)IER原因遺伝子産物の分子機能の解明 Epi-IERの機能を解析するために、海馬初代培養系への遺伝子導入やノックダウン、あるいは子宮内電気穿孔法によるマウス海馬組織での強制発現あるいはノックダウンによる表現型を解析し、この分子の機能(神経突起の長さや広がりの維持等)について調べる。本年度は、IERでみられる神経細胞の樹状突起の伸長阻害・分岐抑制はEpi-IERの過剰発現でレスキューできることを見出した。従って、IERの神経細胞の形態異常がEpi-IERの発現低下だけで説明できることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)IER原因遺伝子産物の細胞内へのシグナル伝達系の解析 (a)IER原因遺伝子産物への結合分子の探索:Epi-IERは細胞内ドメインが長いので、細胞外ドメインでの相互作用情報が細胞内ドメインを介して細胞内へと適切に伝えていると考えられる。この分子間相互作用機構を知るために、マウス脳抽出液中からEpi-IERへと結合する分子を免疫沈降法により精製し、液体クロマトグラフィーと質量分析による同定(ショットガン解析)を試みる。(b)IER原因遺伝子産物に対する結合候補分子の選択:ショットガン解析の問題点としては、同定した分子が直接結合するのか、あるいは複合体の一部の分子として間接結合するのかが不明である。そこで、精製した蛋白質を用いてin vitroの結合実験を行う。また、結合する意味合いを明確にするため、ある分子に対し結合できなくなるような特異的なEpi-IERポイントミュータントを作製する。さらに時間的・空間的に結合しうることを確認するために免疫染色や免疫沈降による確認をする。(c)IER原因遺伝子産物に結合する分子のノックアウトマウスの作製:上記の解析で、Epi-IERの細胞内へのシグナル伝達系において重要であると確信の持てる分子に関しては、ノックアウトマウスの作製(市販されているなら購入)を行う。そして、組織学的・行動学的・電気生理学的に“てんかん様(IER様)”の表現型を示すか検討する。 (2)IER原因遺伝子のノックアウトマウスのさらなる解析 各発生段階に従って、Epi-IERノックアウトマウスの海馬領域の神経細胞ネットワークの異常について形態学的、免疫組織科学的に調べる。マウスについてはGAD67-GFPノックインマウスと交配し抑制性神経細胞を可視化する。また、Vglut2-GFPノックインマウスと交配し興奮性神経細胞も可視化する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度に申請した研究費の一部(約70万円)を25年度に繰り越ししました。24年度の解析は、現有の設備・試薬等でなんとか対応できるのに対し、25年度に計画している生化学的および細胞生物学的解析には新たな抗体・試薬等の消耗品を大量購入する必要があると考えました。また、25年度の研究成果報告および情報収集を目的に国内・国外の学会に参加する予定であるため旅費を申請しました。 使用予定金額:(200万円) 具体的には、抗体(60万円)、生化学実験関連(20万円)、薬品(10万円)、遺伝子導入試薬(20万円)、分子生物学実験関連(10万円)、細胞培養関連(20万円)、実験動物(20万円)、国内・国外の学会参加の旅費(40万円)、を予定しています。 以上の研究経費の妥当性を考慮し、本研究課題の遂行に必要な研究費を積算しました。
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