研究課題/領域番号 |
24500401
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
藤巻 則夫 独立行政法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター, 有期技術員 (80359083)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脳磁界 / 少数試行 / 脳活動源推定 / 言語意味処理 / 脳実形状 / シミュレーション |
研究概要 |
言語意味処理に関わる側頭前部の脳活動は、呈示する2つの単語刺激の意味的距離と呼ばれるパラメータによって、活動位置は変わらず、活動強度のみ変わることが示唆されている。その活動強度の意味的距離への依存性を得ることを目的として、位置を多数(例えば100)試行の加算平均データから得て、強度は少数(例えば10)試行の加算平均データから得る解析手法を提案した。 様々なパラメータ値をもつ刺激を呈示して100試行分のMEG計測データを得る場合、従来の典型的な方法では、100試行全部の加算平均データから、脳活動の位置とモーメント(脳活動を反映する電流の強度と向き)1つが得られるだけだが、本方法によれば、パラメータ値が近い少数試行分(例えば10)の加算平均データごとに強度が得られるので、脳活動強度のパラメータ依存性(例えば10点からなるカーブ)が得られる。ただし少数加算平均データは多数加算平均データと比べて、刺激に同期しないランダムな雑音がより大きいため、活動強度の推定値のばらつきが大きくなるはずである。これをシミュレーションで調べた。 シミュレーションでは、言語処理に関わる脳活動5部位の位置と強度のデータを使って、脳実形状に基づいて、その脳磁界を計算し、これにヒト被験者からMEG計測した脳磁界雑音を重畳して疑似的な脳磁界を作成した。その100試行分の加算平均データから、拡張L1ノルム法により活動位置を求め、強度は10試行分の加算平均データから求めることにより、脳活動強度の標準偏差を得た。言語意味処理に関わる側頭前部において、平均強度で正規化した標準偏差は13%(元脳磁界の信号雑音比が1の場合)であった。脳磁界雑音が正規分布に近いとすれば、標準偏差の3倍程度(有意水準1%)の信号変化が有意に検出されるので、上記の結果は、約40%程度の強度変化があれば、それを有意にとらえられることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では言語意味処理の脳活動について、脳活動強度の意味的距離への依存性を得るための少数試行加算平均データ解析手法の開発を行う。そのため、H24年度にシミュレーションによる本解析手法の精度を評価した。H25、H26年度には実計測MEGデータの入手と、それへの解析手法の適用を行う予定である。 H24年度に、前記のように脳実形状に基づくリアルなシミュレーションにより、言語脳活動5部位が同時に活動する場合に、元脳磁界の信号雑音比が1の場合に、10試行分の加算平均データから得た脳活動強度の標準偏差は、言語意味処理に関わる側頭前部において13%であった。この結果は、40%程度の信号変化を有意に検出できる(有意水準1%)ことを示唆するものであり、実データに適用可能な見通しが得られた。 このシミュレーションの結果について、論文投稿を試みているが、いまだに採録には至っていない。しかしながら、H25、26年度に予定する実データへの適用について、期待がもてる結果が得られたため、初期の予定に近い進展があったと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度のシミュレーションにより、少数試行データ解析手法により、言語意味処理の脳活動をとらえる可能性が示唆された。 今後は言語意味プライミングなどの実験課題を使って計測するMEG実データに適用し、言語意味処理の脳活動の意味的距離依存性の抽出を試みる。 意味的距離のパラメータ値により、脳活動強度がどの程度変化するか?パラメータ値による連続的な変化を有意にとらえられるか?などは、現実のデータに適用してみて初めてわかる。 この試みの中で、解析にとって最適な加算平均試行数、パラメータ依存性を検出する際の平均時間窓、パラメータ依存性の有意性検定の統計手法、アーチファクト対策などの課題を解決しながら解析を進める。必要に応じて他の解析手法の導入や追実験などを行う。 言語処理の脳活動を反映するMEG(脳磁界)成分ないしEEG(脳波)成分はN400として知られている。過去の手法とそれを用いた研究では、意味的距離が近い/遠いの二通りについて、脳活動(N400成分)の強度の大小を比較するのが限界であった。本研究によってはじめて、本来連続的な意味的距離というパラメータへの脳活動強度の依存性が明らかになることを予想している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(B-A)として81,761円が生じた。これは、平成24年度にシミュレーション検討のほか、MEG脳活動実データ取得のための実験準備(物品費)、国内学会発表(出張費)の予算利用を予定していたが、シミュレーションに時間がかかり、実験準備に至らず、一方シミュレーション結果を海外学会発表するに至った。この物品費減と学会発表費増などの結果、前記の差額が生じたためである。 H25年度はこの差額を含めた予算について、本研究に関わる研究分野の最近の動向調査のための学会参加(日本生体磁気学会などの国内学会、SfNなどの国際学会等)、本研究成果発表のための英文校閲・論文投稿、MEG計測データの精密な解析のために必要な脳実形状パラメータを抽出するソフトウェアの購入、MEG実験のための脳計測施設利用負担金・被験者謝金、に研究費を用いる予定である。
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