研究課題/領域番号 |
24500402
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
鄭 且均 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00464579)
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キーワード | アルツハイマー病 / ATBF1 / APP代謝 / Aβ産生 |
研究概要 |
最近の研究では、アルツハイマー病(AD)の原因遺伝子であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)が代謝・運送の異常を起こすことで、アミロイドβ蛋白(Aβ)産生の変化が起こり、ADの発症に深く関わっていることが報告されている。従って、APPの代謝機構を明らかにすることはADの発症原因解明に重要である。最近、我々はATBF1(AT-motif binding factor1)が AD脳の神経細胞の細胞質で過剰発現することを発見した。本研究ではAPP代謝及びAβ産生におけるATBF1の機能を明らかにすることによって従来知られていなかった新たなAPP代謝、Aβ産生制御系の解明を目的とする。 前年度までは、ATBF1がAPPと結合し、β及びγセクレターゼの活性が高いエンドソームにAPPを運送させることでAβ産生を促進することが分かった。本年度は、①ATBF1分子上のAPP結合ドメインを決定するため、まず、ATBF1分子を部位別に3種類の発現ベクター(HA-tag付き)を作成した。この3種類のATBF1発現ベクターとAPP発現ベクターをHEK293T細胞に共発現させ、免疫沈降法やELISA法を用いて調べた。その結果、APPはATBF1の893-3288ドメイン部分と結合することでAβ産生を増加させることが分かった。②また、APP分子上のATBF1結合ドメインを決定するため、APP細胞質ドメインの部分欠損発現ベクター(Flag-tag付き)とATBF1発現ベクターをHEK293T細胞に共発現させ、免疫沈降法やELISA方法を用いて調べた結果、ATBF1はAPP細胞質の681-690ドメイン部分と結合することでAβ産生を増加させることが分かった。 また、ATBF1ヘテロ (+/-)とADモデルマウスであるAPPトランスジェニックマウスの交配マウスを用いた実験では、交配マウスから生まれたマウスはすべて生後直後で死亡していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究の目的はAPP代謝及びAβ産生におけるATBF1の機能を明らかにすることによって従来知られていなかった新たなAPP代謝及びAβ産生制御系の解明を目的としている。APP代謝及びAβ産生におけるATBF1の機能解析のため、いままで細胞レベルとATBF1ノックアウトマウスの解析という2つの実験計画を立てて実験を行った。 まず、細胞レベルの実験では計画とおり行い、ATBF1はAPP細胞質の681-690ドメイン部分と結合することでAPPを安定化させAβ産生を増加させることが分かった。また、ATBF1の過剰発現によってβ及びγセクレターゼの活性が高いエンドソームにAPPを運送させることでAβ産生が促進されることも分かった。しかし、ATBF1ノックアウトマウスを用いた実験では、ATBF1ノックアウトマウスは生後直後で死亡していることや、ATBF1ヘテロ (+/-)とADモデルマウスであるAPPトランスジェニックマウスの交配マウスを用いた実験でも、交配マウスから生まれたマウスはすべて生後直後で死亡していることが分かった。この結果から、ATBF1はAβの産生を促進すること以外にも、マウス個体の生命維持にも重要な働きをしていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1)APP代謝における他の蛋白質と相互作用検討; APPの細胞質ドメイン結合蛋白質(X11やX11L,など)は、APPの細胞質ドメインと結合することでAPPの代謝・機能・運送等を制御し、Aβ産生に影響することが報告されている。ATBF1発現ベクターとX11やX11L発現ベクターをHEK293T細胞に発現させ、ELISA法よりAβ量の定量、ウェスタンブロティング法、免疫沈降法などを用いてADの分子病態に関連する分子群の解析を行う。 2)ATBF1ノックアウトとATBF1ヘテロ (+/-)マウスの胎児の解析。 ATBF1マウスは生後直後で死亡していることが分かったので、胎児を取り出し次の実験を行う。① 脳の形態を調べる。② Aβ量の解析;脳組織からAβ量をELISA法で定量する。③ APPの細胞内局在を検討する;脳標本を用いてAPPの局在をAPP抗体とゴルジ体、エンドソーム、ライソゾーム特異的な抗体を用いて二重蛍光染色することで確認する。④ 脳組織またはこのマウスから神経細胞を分離し、分子病態に関連する分子群の発現量をreal-time PCR及びウェスタンブロティングにより定量する。 3)ATBF1の発現を抑制する化合物の探索。AD脳においてAβはATBF1の発現を上昇させることで神経細胞死を引き起こすことや、Aβ産生を増加させることからATBF1の発現を抑制すればAD発症や進行を抑えられると考えられる。そのためスクリーニング系として、ヒトATBF1プロモーター領域をルシフェラーゼベクターに組込んだコンストラクトを細胞に安定導入した細胞株を確立し、ATBF1プロモーター活性をアッセイするシステムを構築し、我々の持っている化合物ライブラリー(10,000化合物)をこのスクリーニング系に添加し、化合物探索を行う。こうして得られた候補化合物をADモデルマウスに投与し脳内Aβ量を検証する。
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