研究課題/領域番号 |
24500403
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
杉山 陽子 (矢崎 陽子) 沖縄科学技術大学院大学, 臨界期の神経メカニズム研究ユニット, 准教授 (00317512)
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キーワード | 大脳聴覚野 / 可塑性 / 発達 / 臨界期 |
研究概要 |
昨年度の研究においてキンカチョウの大脳聴覚連合野の神経細胞では親鳥の歌を聴く、と言う聴覚経験を得ることにより、親鳥の歌に選択的な聴覚応答が見られるようになることが明らかになった。ここからこの領域に親鳥の歌の記憶が形成されること、つまり聴覚経験依存的な可塑性が見られることが示唆された。そこで本年度はこの聴覚連合野の聴覚応答についてさらに詳しい解析を行った。まず、慢性記録法を用いることによりこの領域の神経細胞に見られる聴覚経験依存的な聴覚応答の可塑的変化(長期的可塑)の詳しい解析を行った。この方法を用いることにより、親の歌を聴く経験の前後1ヶ月以上に渡り記録を行うことが可能となった。その結果、聴覚連合野の神経細胞は特定の成鳥の歌を聴き続けることにより、この歌に対する選択制を獲得することが明らかとなった。さらに、覚醒下と睡眠下、親鳥との接触の有無など動物の状態の違いに依存した聴覚応答の可塑的変化(短期的可塑性)も見られることが分かった。さらに昨年度には新たにウィルスベクターを用いた薬理遺伝学的手法の確立に成功したが、本年度はこの手法を応用し、鳥の歌を聴いている時の聴覚連合野の活動を制御することでこの領域の歌学習における役割を明らかにする研究を行った。実験はほぼ終了しているがデータの解析が途中であり、成果については検討を行っている。 加えて、上記で見られた可塑性に抑制性神経細胞が関わっているのか、抑制性神経機構の発達による臨界期の決定という本研究課題の研究仮説を確かめるため、この大脳聴覚関連領域における抑制性神経細胞の発達、それにおける聴覚経験の影響などを免疫組織学的に調べる研究を開始した。また、電気生理学的研究においても、慢性記録で見られた聴覚応答の短期的可塑性に抑制性入力が関わるのかどうか、薬理学的研究を行うための実験系の確立、予備実験を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は研究初年度であった昨年度に当初の研究計画を変更し、研究の標的を大脳聴覚連合野に絞った。当初の目的の脳内領域と異なり、これまでの研究報告の少ない領域であったため、その聴覚応答、歌学習における役割などその基本的な研究から行う必要があったが、本年度はさらに慢性電極による電気生理学的手法、昨年度に確立した薬理遺伝学的手法など新たな手法を導入することにより、臨界期に行われる可塑性を見出すことが出来た。これまでの研究が少ないことから当初の研究計画により基礎的な研究が多くなっているが、実質的な内容としては新たな発見につながる成果が多く、今後の発展が期待できる。また、多くの手法を使い、多岐的な研究を行っているため、今後、研究発表を行う際にはより多くの成果が出ると期待できる。つまり結果としては概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度は本研究計画の最終年度に当たる。昨年度より、1)電気生理学的手法による聴覚応答の可塑的変化を明らかにする研究、2)薬理遺伝学的手法を用いた大脳聴覚連合野の歌学習における役割を明らかにする研究、3)免疫組織学的手法による大脳聴覚連合野の抑制性神経細胞の発達、聴覚経験による発達への影響を明らかにする研究、の3つの研究が同時並行で進められている。本年度は最終年度に当たるため、この3つの研究全てにおいて、研究成果を纏められるよう研究を進めていく。1)についてはこれまでに昨年度の研究で明らかになった聴覚応答の短期的可塑性について、その神経メカニズムを明らかにするため、薬理学的実験を進めている。この実験の成果も含め論文にまとめいていく作業を行う。2)については実験は2013年度で終了している。本年度はデータの解析を行い、これまでの他の実験結果と併せて論文にまとめる予定である。3)についても実験、解析を進めて行き、他の実験成果との統合的検討を行う。 全体として、本研究計画開始時より行ってきた様々な研究の成果が出始めている。それらを論文として発表できるように、不足するデータを補う実験、解析を行い論文としてまとめられるようにしていく計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究計画は研究初年度に新たに発表された論文などから得た知見により当初の研究計画を変更して研究を進めている。昨年度においても、基礎的な研究を進めていたため、試薬の購入は増えている一方で、新たな器機の購入が少なくなっていた。また、多くはその前年度(研究初年度からの繰り越しである。しかし、昨年度予備的に進めた慢性記録による研究など新たな成果が出ている実験があることから、次年度はこれらの実験に必要な機器を購入する予定であり、次年度に繰り越し使用する。 今年度すでに予備実験が進められ、成果を得ている慢性記録の実験のための研究機器を購入する予定である。
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