本年度は研究最終年度に当たるため、キンカチョウ終脳の聴覚関連領域における幼少期の聴覚経験の影響をまとめ、論文として投稿できるよう必要なデータを取得した。 初年度からの研究により、幼少期に親の歌を聴く、という聴覚経験により終脳聴覚関連領域の中でも背内側部の神経細胞が聞いた親の歌に特異的なch聴覚応答を見せることが明らかになった。さらに、この領域に慢性電極を植え、親の歌を聴き、歌を学習している長期間に渡り、この領域の神経細胞の聴覚応答を調べた。聴覚関連領域には発火頻度、発火の波形のちがう2種類の神経細胞、BS細胞、NS細胞があることが明らかになった。さらに親の歌を聴くという聴覚経験がないと、どちらの種類の神経細胞も様々なトリの歌に反応するが、親の歌を聴いて数日~10日後には一部のBS細胞のみが親の歌のみに特異的に聴覚応答を示すようになることが明らかになった。これらのことは、幼少期に親の歌を聴く、という聴覚経験により聴覚関連領域の神経回路が再編成されたことが考えられた。 さらに、この聴覚関連領域における神経回路編成を詳しく調べるため、この領域にGABA受容体の阻害剤であるGabazineを局所投与し、GABA抑制性機構の役割を調べた。その結果、Gabazieを投与すると、親の歌に選択的に聴覚応答を示す神経細胞は、他の歌にも反応するように、つまり選択性が下がることが明らかになった。一方で、選択制のないBS細胞、NS細胞ではGabazineを投与しても聴覚応答に変化は見られなかった。 これらのことから、キンカチョウでは幼少期の聴覚経験に依存して、終脳聴覚関連領域のGABA抑制性機構が修飾されることで、この領域の神経回路が成熟し、親の歌の記憶が形成されると考えられた。また、聴覚領域における音声情報処理機構についても解析を行った。
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