研究概要 |
近年、末梢神経損傷後の脊髄後角において活性化したマイクログリア神経障害性疼痛の重要な原因因子である報告が多数なされている。このときマイクログリアを活性化させる因子の一つとしてATPが知られている。これまで我々は脊髄後角の活性化マイクログリアにATP受容体のP2Y12, P2Y13受容体が増加することを報告しており、このP2Y受容体がRho の活性化をコントロールし、細胞形態変化に関与するのではないかと考え、実験を行った。Rho kinaseによってリン酸化されるEzrin, Radixin, Moesin (ERM)タンパク質はアクチンフィラメントと細胞膜タンパク質を架橋するリンカータンパク質として機能し、細胞の移動や形態変化に関与することが知られている。神経障害性モデルの一つであるSNIモデルラットを用いてこのERMタンパク質のリン酸化の発現を検討したところ、モデル作製後の脊髄において total ERMタンパク質の発現変化は見られなかったが、ERMのリン酸化が増加していた。二重免疫組織化学法にて各種マーカー抗体を用いて検討したところ、マイクログリアマーカーのIba1と高確率で共存が見られた。この結果から、Rho kinase inhibitorを髄腔内投与することでマイクログリアの形態変化等が起こりうるのではないかと考え、実験を行った。Iba1抗体を用いてSNIモデル作製3日後のマイクログリアの形態を観察したところ Vehicle投与群に比べRho kinase inhibitor投与群のマイクログリアの突起形状に変化が見られた。また、疼痛行動を検討したところRho kinase inhibitorの髄腔内投与により、機械刺激閾値の改善が見られた。今後はこれらの結果を基に更に詳細な解析を進める。
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