本研究は、高次脳中枢から嗅球への遠心性入力に着目し、特にセロトニンニューロンに焦点を絞り、シナプス結合を含めた詳細な微細構造解析を行なった。 他の脳領域から嗅球へ投射する遠心性ニューロンは、セロトニンやアセチルコリン、ノルアドレナリン等の遠心性ニューロンは細かな線維が複雑に脳内に分布していることがわかっても、その投射経路は不明であった。そこでまず単一のセロトニンニューロンの選択的標識を試み、シンドビスウイルスベクターによる遺伝子導入法で縫線核(起始核)ニューロンを感染させ、感染してGFP蛍光標識されたニューロンを多重蛍光免疫染色でセロトニンニューロンと同定し、その軸索を起始核から嗅球へNeurolucidaでデジタルトレースを行った。標識の選択性と効率性を高めるため、Serotinin-CreマウスとAdeno-associated virusを用いて単一標識を行った。その結果、脳内における単一セロトニンニューロンの投射経路の全貌が初めて明らかとなった。 次いで免疫電子顕微鏡法で嗅球内のシナプス結合を解析した。軸索のVaricosityに形成するシナプス結合の形態は非対称性であった。電子線トモグラフィー法で解析した結果、形態に多様性が認められた。シナプス標的は嗅球において異なる機能を発現する介在ニューロン群であり、連続切片再構築法により1本のセロトニンニューロンからこれら異種の介在ニューロンへ同時に非対称性シナプスを形成していた。シナプス部位ではグルタミン酸トランスポーター3との共存が免疫多重電顕法で確認され、伝達物質としてのグルタミン酸が示唆された。 以上の結果を論文にまとめた。(Suzuki Y. et al 2015、鈴木他 2014、樋田他2015)一連の研究を発展的に展開し、他の遠心性投射系も解明し、微細構造レベルでの確かな形態学的基礎を構築したいと考えている。
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