研究課題/領域番号 |
24500421
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
原 由紀子 杏林大学, 医学部, 講師 (40313267)
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研究分担者 |
菅間 博 杏林大学, 医学部, 教授 (10195191)
矢澤 卓也 杏林大学, 医学部, 准教授 (50251054)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 病理学 / 進行性多巣性白質脳症 / JCウイルス / PML-NBs / 脳腫瘍 |
研究概要 |
JCウイルスは進行性多巣性白質脳症の原因ウイルスである。JCウイルスはDNA腫瘍ウイルスSimian virus 40 (SV40)と約70%のホモロジーを持ち、実験動物に接種すると高頻度に脳腫瘍を発症させた。ヒト脳腫瘍組織からも頻繁にウイルスゲノムが検出され、ヒトに対する腫瘍原性が危惧されるが結論には至っていない。また近年、正常な脳組織にもJCルスが潜伏・持続感染することが明らかになってきた。そこで我々は、既に脳に潜伏・持続感染しているJCウイルスが、脳腫瘍細胞で溶解感染をおこしている可能性を考え、本研究を開始した。 本年度は次のような研究成果を得た。進行性多巣性白質脳症の剖検例で、JCウイルスが感染したグリア細胞の細胞周期関連蛋白の発現を見てみると、PCNAやcyclin Aの高発現が認められた。これは、JCウイルスが宿主細胞に依存して子ウイルスを複製するためで、感染したグリア細胞はS~G2期に移行してウイルス複製に有利な細胞核内環境を提供すると考えられる。また、JCウイルス複製の足場を提供する核内構造、PML-NBsは腫大することも明らかになった。JCウイルスカプシドタンパクは、腫大したグリア細胞の核に陽性となった。 さらに、oligodendroglioma (WHO grade 2), Anaplastic oligodendroglioma (WHO grade 3), Glioblastoma (WHO grade 4)の合計30症例でJCウイルスカプシドタンパクの発現をみると、増殖能の高い腫瘍組織でより高頻度にウイルスタンパクが陽性になることがわかった。これらの腫瘍組織ではPCNAやcyclin Aの高発現も伴っていたことから、脳腫瘍細胞でJCウイルスが溶解感染を起こしている可能性も考えられる。現在、電顕関節で脳腫瘍組織でのウイルス粒子の同定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進行性多巣性白質脳症の剖検例では、PCNAやcyclin Aの高発現が認められ、また感染したグリア細胞は核腫大に伴いS~G2期に細胞周期を移行して、ウイルス複製に有利な細胞核内環境を提供すると考えられた。これに類似した研究は、培養細胞を用いた実験系では報告があるものの、人脳組織を用いての解析は本研究が初めてである。またJCウイルス感染細胞で、核腫大は細胞周期の移行に伴って起きることが明らかになったし、また同様にウイルス増殖の足場を提供するPML-NBsも腫大することが明らかになった。これらの発見は世界最初である。 さらに脳腫瘍組織においては、増殖能の高い腫瘍でより高頻度にウイルスタンパクが陽性になることが明らかになってきた。ウイルス陽性率は、MIB-1 LIとも良く相関していた。またウイルス陽性となった腫瘍組織では、PCNAやcyclin Aの高発現も伴っていたことから、我々が提唱する作業仮説、即ち脳に既に潜伏・持続感染していたウイルスが増殖の早い腫瘍細胞で溶解感染をきたしている可能性を示唆している。過去に脳腫瘍組織においてJCウイルスの存在を報告した論文では、主に腫瘍抗原であるT抗原や、ウイルスゲノムを検出したものであったのであった。本研究は、ウイルスカプシドタンパクの検出を試みた点で独創的であり、またその結果は重要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、①JCウイルスが正常脳組織で持続・潜伏感染していること、②脳腫瘍組織で、既に潜伏・持続感染していたウイルスが溶解感染をおこしている可能性を明らかにすることを目標に研究を推進する。 ①に関しては、免疫組織化学的にJCウイルスカプシドタンパクの発現を検出することに加え、in situ hybridization法にても検討する。既にJCウイルスが溶解感染を起こす場合は、転写因子が結合する調節領域の塩基配列が変異することが知られているので、変異前と変異後の塩基配列の相違を区別できる55-bpブロックと66-bpブロックに対する2種類のprobeを用いる。さらに電子顕微鏡でウイルス粒子の検出を試みる。 ②に関しても同様に、in situ hybridizationで検討する。さらに、ウイルス溶解感染が強く疑われる組織においては電子顕微鏡でウイルス粒子の検出を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
既に申請した内容と大きな変更はない。次年度も、分子生物学や免疫組織化学などの実験に使用するプラスチック製品や抗体、制限酵素やキットなどの消耗品を中心に研究費を使用する計画である。また次年度は、初年度の研究成果を論文発表することが予測され、英文校正や出版費用に支出を予定している。さらに、国際学会での発表を予定していることがら、海外出張の旅費に使用する予定である。
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