研究課題/領域番号 |
24500421
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
原 由紀子 杏林大学, 医学部, 講師 (40313267)
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研究分担者 |
菅間 博 杏林大学, 医学部, 教授 (10195191)
矢澤 卓也 杏林大学, 医学部, 准教授 (50251054)
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キーワード | 病理学 / 進行性多巣性白質脳症 / JCウイルス / PML-NBs / 脳腫瘍 |
研究概要 |
JCポリオーマウイルス (JCウイルス) は、進行性多巣性白質脳症の原因ウイルスである。JCウイルスは、実験動物に高頻度に脳腫瘍の発生を誘導したが、ヒトに対する腫瘍原性は、長い議論の末、見解の一致をみていない。近年我々は、JCウイルスが、乏突起膠細胞のPML-NBs(promyelocytic leukemia nuclear bodies)と呼ばれる核内ドメインを標的に感染することを報告した(Shishido-Hara et al, J Virol 2004他)。PML-NBsは急性前白血病で発見されたドット状の核内構造で、p53などの腫瘍抑制因子、転写因子など80種以上の蛋白が集積し、腫瘍抑制やアポトーシス、細胞周期制御などの機能に関与する。PML-NBsの機能破綻は細胞腫瘍化を誘導する。本研究は、JCウイルスがヒト脳腫瘍発生に関与する可能性があるのか?、検討することを目的としている。 平成24年度、平成25年度においては、次の様な結果を得た。進行性多巣性白質脳症の脳組織において、JCウイルスが感染した乏突起膠細胞は、細胞周期をS~G2様に移行させながら核腫大する。この過程でPML-NBsは腫大化する。JCウイルスは、腫大化するPML-NBsで子ウイルスを産生し、やがてはPML-NB構造を崩壊・消失することが明らかになった。しかしながら、JCウイルス感染によりS~G2様に移行した感染細胞の細胞周期が、M期に移行せず細胞変性を導くのか、未だ明らかになっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度5月、進行性多巣性白質脳症について、JCウイルス感染細胞の核形態の変化と細胞周期の関係を明らかにし、アメリカ神経病理学会誌に発表した。また昨年は、New Yorkで開かれたprogressive multifocal leukoencephalopathyのシンポジウムでも口演し、Encyclopedia for Neurological sciencesという本でも分担執筆する機会を得た。これらは、我々の研究業績が世界的に評価されていることを示しており、研究計画は順調に進展しているとと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、①JCウイルスが正常脳組織で持続・潜伏感染していること、②脳腫瘍組織で、既に潜伏・持続感染していたウイルスが溶解感染をおこしている可能性を明らかにすることを目標に研究を推進する。 ①に関しては、既に免疫組織化学的にJCウイルスカプシドタンパクの発現を検討した。当初使用していたウイルス抗体は非特異的反応が疑われたので、新たなモノクローナル抗体を作成して解析をすすめている。さらに、in situ hybridization法で検討を加える予定で、電子顕微鏡でのウイルス粒子の検出も計画している。 ②に関しても同様の検討を、Grade II~Grade IVの神経膠腫を用いて進めている。
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次年度の研究費の使用計画 |
論文が国際雑誌に受理され、アメリカの神経病理学会誌の5月号に掲載された。出版費用に約50万円相当がかかると推測される。しかし、費用の請求は論文発表後であることから、これに対する予算の確保を行った。 米国から請求書が届き次第、速やかに支払を行う予定である。
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