研究概要 |
本研究は,非増殖性組換えウイルスを用いてTDP-43, FUSなどのALS関連遺伝子,およびプロテアソーム・エンドソーム・オートファジーに対する抑制性ショートヘアピン(sh)RNAを成体ラット運動ニューロンに単独または共発現させ,凝集体の形成過程や細胞死を解析することにより,ALSの運動ニューロン変性機序の解明を目指している.我々はこれまで,TDP-43, FUS cDNAや蛋白分解系を阻害するshRNAを発現する組換えアデノウイルスをラット,マウス末梢神経に混合接種し,ウイルスの軸索内逆行輸送により運動ニューロンに細胞質内凝集体を形成しうることを報告した.しかし組換えアデノウイルスによる外来遺伝子発現は接種後1週間をピークに急速に減衰していく.そこで今年度は,より長期間安定した遺伝子導入発現が期待できる組換えアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)または組換えレンチウイルス(LxFuGB2)の軸索内逆行輸送による成体マウス運動ニューロンへのALS関連遺伝子導入を検討した.ヒト正常またはC末断片 (208-414) TDP-43,正常または変異(P525L) FUSをDsRedとともに発現する組換えAAV9およびLxFuGB2,プロテアソーム(PSMC1; proteasome 26S subunit, ATPase 1),オートファジー(ATG5)に対するshRNAをEGFPとともに発現する組換えAAV9およびLxFuGB2をそれぞれ作製し,8週齢Fischer 344ラットまたはICRマウスの顔面神経または坐骨神経にこれら組換えウイルスを注入接種した.その結果,組換えAAV9,組換えLxFuGB2ともに顔面神経または坐骨神経からの逆行輸送により注入後2~4週間で顔面神経核,腰髄前角運動ニューロンに限局してTDP-43, FUS, shRNA導入遺伝子の発現を認めた.現在,これら組換えウイルスの生体内でのより長期的な遺伝子発現,および混合接種することで上記の組換えアデノウイルスと同様に運動ニューロンに細胞内凝集体を形成できるかを検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.組換えアデノウイルス,組換えレンチウイルス,組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)の作製:①ALS関連遺伝子のクローニング:ヒト正常および変異TDP-43またはC末断片TDP-43,正常および変異FUS, VCP, UBQLN2をDsRed発現ベクターにクローニングした.②shRNA発現ベクターの作製:以下の遺伝子の発現を阻止しうるラットshRNA配列をpGneneClip-hMGFP (Clontech)にクローニングした;PSMC1, TSG101, VPS24, CHMP2B, Atg5, Atg7, TDP-43, FUS, VCP, UBQLN2 ADAR2.③組換えウイルスの作製:上記①②のcDNA/DsRed断片,shRNA/GFP断片を発現する組換えアデノウイルス,レンチウイルス,AAVを作製,大量培養ののち精製ウイルスを得た. 2.培養運動ニューロンにおける凝集体形成と細胞死の解明(1):培養ラット胎仔初代腰髄運動ニューロン,またはマウスES細胞から分化させた運動ニューロンに,上記組換えアデノウイルス,レンチウイルス,AAVを感染させた.また成体ラット神経幹細胞から分化させたニューロン・グリア(アストロサイト,オリゴデンドロサイト)にも感染を試みた.TDP-43, FUS発現ウイルスと各shRNAウイルスの共感染によりニューロン,グリア細胞内凝集体の形成過程を解析した. 3.成体マウス・ラット運動ニューロンにおける凝集体形成と細胞死の解明:成体マウス・ラットの右顔面神経,坐骨神経に上記組換えウイルスを単独または複数の組み合わせにより注入接種し,組換えウイルスの逆行輸送による運動ニューロンにおける導入遺伝子の発現を確認し,凝集体の形成を検討している.一方,定位脳固定装置を用いてラットの脳幹部顔面神経核に上記組換えレンチウイルス,AAVを注入接種し,ニューロンおよびグリア細胞に長期感染発現させ同様に解析している.
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今後の研究の推進方策 |
1.培養運動ニューロンにおける凝集体形成と細胞死の解明:前年度に引き続き,初代運動ニューロン,ES細胞分化運動ニューロン,iPS細胞分化運動ニューロン,神経幹細胞分化ニューロン・グリア細胞培養系に組換えアデノウイルス,レンチウイルス,AAVを感染させ,凝集体の形成過程を経時的に蛍光抗体法,免疫電顕により解析する.また,細胞死をannexin-V, propidium iodide, TUNEL染色,細胞数計測にて解析する. 2.成体マウス,ラット運動ニューロンにおける凝集体形成と細胞死の解明:前年度に引き続き解析をすすめるとともに,PALM-MBIII レーザーマイクロダイセクションシステムを用いて凍結組織切片から蛍光陽性の凝集体を持つ運動ニューロンを切り出して回収し,RNAを調整,リアルタイムRT-PCRにより凝集体形成と遺伝子発現の関連を解析する.また研究の進展によってはマイクロアレイ解析も考慮する.以上により, TDP-43, FUSとプロテオソーム・エンドソーム・オートファジーのどの遺伝子を過剰発現あるいはノックアウトすると凝集体が形成されうるか,細胞死の鍵を握る分子は何か,蛋白分解系,凝集体形成と細胞死にはどのようにリンクがあるのか,グリア細胞の関与は必要か否か,を解明する.
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