研究課題
基盤研究(C)
本年度は,まず当研究室が所蔵している変性型認知症疾患症例について,異常蛋白質蓄積病変を免疫組織化学染色により確認する作業から開始した.これは従来,剖検脳病理診断における異常tau蓄積検出の大半を,長期間のホルマリン固定の影響を受けにくいGallyas-Braak染色(神経原線維変化,嗜銀顆粒,neuropil threadsやastrocytic plaques),Bodian染色によるPick球の検出により行っていたためである.その過程で,神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)の側坐核に,従来知られていなかった異常リン酸化tau陽性神経細胞の出現を認めた.これはADの側坐核よりもはるかに高頻度であった.この側坐核のtau陽性細胞は,近接切片のGallyas-Braak染色標本ではほとんど観察されず,そのために今日まで気づかれていなかったものと推測される.リン酸化tau特異抗体である,AT8,AP422,PHF-1に加え,リン酸化非特異的なA0024,構造変化特異的なMC-1などにより非特異反応でないことを確認した.SD-NFT側坐核の凍結脳からsarkosyl不溶画分を調製し,脱リン酸化の後immunoblotを行ったところ,SD-NFTの側頭葉やADと同様,6バンドパターンを確認した.したがって,異常蓄積tauのアイソフォームが3R+4RパターンであることはSD-NFTの他の部位と同様である.ただ,免疫電顕では明確なfibrilを形成している部位は稀で,免疫反応は構造が不明瞭なライソゾーム様の部位に多く見られた.Gallyas-Braak染色がtauのどのような分子構造の変化を認識して陽性となるのかはいまだにわかっていないが,異常リン酸化と凝集・不溶化はその変化に先行して生じていると推測される.
3: やや遅れている
本研究はアルツハイマー病(AD)をはじめとする様々なtauopathy症例の凍結脳から,性質の異なると予想される凝集シードを抽出し,モデルを用いて,その凝集シードとしての効果を解析することを目的としている.そのために,同一症例の病理組織標本を用いて,これらtauopathyに高頻度で共存するαシヌクレインやTDP-43の異常蓄積の評価をすることが重要であるが,その際に用いる免疫組織化学染色は,(使用する抗体や抗原エピトープの性質にもよるが)ホルマリン固定パラフィン包埋された病理組織標本では十分な感度が得られないことが多い.まず異常リン酸化αシヌクレインに対する抗体として,自家製ウサギポリクローナル抗体を使用して,ホルマリン固定パラフィン標本における検出感度を検討した.この抗体による染色は,市販モノクローナル抗体よりは良好な感度を得られたが,4%パラフォルムアルデヒド48時間固定凍結標本において大脳皮質一面に陽性neurites~threadsが出現する症例の近接ブロックにおいても,Lewy小体と一定の太さを有するLewy neuritesのみの検出にとどまった.αシヌクレイン異常蓄積については病理組織標本ではやや過小評価となる前提で今後の作業を進める必要がある.一方,TDP-43については既に固定時間をコントロールした凍結標本との比較において比較的近い感度を得られることがわかった.より大きな問題は,3R(リピート)tau,4R tau特異抗体の検出感度の低さである.今日,組織標本において3R tauと4R tauの蓄積を識別する目的で使用可能なのは市販のモノクローナル抗体一組であるが,様々な前処理にもかかわらず,3R/4Rの染色の総計は隣接切片の,より高感度なリピート非特異的な抗tau染色よりも僅かであり,次年度への課題として残った.
4R tauに対する抗体を,親和性の点でマウスモノクローナル抗体より有利なウサギを用いて作製する.一方,3R tauに対する抗体は認識エピトープが限定されるため抗体作製はきわめて困難であり,現存する市販モノクローナル抗体を使用することとして,凍結脳から調製した不溶画分の脱リン酸化サンプルによるimmunoblotと組み合わせて-微量の異常蓄積蛋白の検出感度という点においてはimmunoblotも必ずしも良いとは言えないが-4R tauopathy由来のシード用サンプルにおける3R tauの混入を,可能な限り回避する.また,一部の症例においてアルコール固定を行った試料が入手可能であるため,アルコール固定凍結標本における,これら抗体の検出感度について検討を行う.これまでの経験から,リピート部位のような“内側”のtauエピトープについては,アルコール固定標本で良い結果が得られることがある.αシヌクレインについては,剖検時4%パラフォルムアルデヒド48時間固定凍結切片が入手可能な症例の使用を優先することとし,それが不可能な場合は,tauと同様,サンプル調整後のimmunoblotを念入りに行うこととする.本年度は上述の免疫組織化学染色の問題解決を進めるのと並行して,本年度は,2011~2012年に行われた研究所の移転および都立松沢病院の移転に伴う両施設の超低温槽の更新の結果生じた,凍結脳試料の収納の混乱の解消を,まず実施する.
免疫組織化学染色のための基本試薬,および一次抗体の購入生化学的解析(分画やimmunoblot)のための試薬類の購入論文のmethod欄に出てこない技術的ノウハウ入手のための学会参加症例データの詳細を整理してデータベース化するための人件費
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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http://www.igakuken.or.jp/index.html