研究課題
まず,研究基盤上の課題であった(2011~2012年の)研究所および都立松沢病院の移転,それに伴う両施設の超低温槽・保冷庫の更新等の結果生じた剖検脳試料の収納の混乱について,本年度,集中的に資源を投入したことにより整理が完了した.その間に,前年度に見出した神経原線維変化優位型認知症(tangle predominant dementia: TPD)における側坐核のtau異常蓄積に関してさらなる解析を進め,Alzheimer病: ADとの比較を行ったところ,tau伝播仮説と良く合致する知見を得ることができた.すなわち,側坐核および尾状核のtau蓄積の出現におけるTPDとADとの差異は,両疾患の海馬および大脳新皮質におけるtau蓄積分布の違い(大脳新皮質:AD>>>TPD,嗅内皮質:AD>TPD,CA1・支脚:AD<TPD)と,これらの部位と側坐核/尾状核との神経線維連絡とから説明が可能である.また線条体内部にはstriosome/matrixと呼ばれる神経化学的にヘテロな部位が存在し,それぞれへの大脳皮質,海馬からの投射に量的な差があるが,TPDにおける側坐核のtau異常蓄積もまだらに出現し,それがstriosome/matrixの構造に一致していることがわかった.これもTPDの側坐核におけるtau異常蓄積が,同疾患においてCA1・支脚のtau蓄積がADよりも高度であることに由来することを示唆する所見と考えられる.なお,この側坐核の研究の過程で,従来考えていたよりも(tau病変検出を目的としてルーチンで行っていた)Gallyas-Braak染色では十分検出できていないtau異常蓄積が存在する可能性が出てきたため,解析済みとしていた過去の症例についてAT8抗体を用いた再評価を開始した.
3: やや遅れている
・最近,培養細胞においてシードモデルを作製するにあたり,recombinantのtauやαsynuclein,TDP-43をインキュベートして凝集・線維化させたものをシードとする場合と,ヒト剖検脳から抽出した異常蓄積蛋白~実用的にはSarkosyl不溶画分をシードとする場合とで,recipient培養細胞における凝集体形成の効率に著しい差があることが指摘されるようになった.後者では,シードを抽出した複数の症例間において定量的な比較が可能なほどに十分な量の凝集体形成を安定して得ることが難しいため,本研究課題においては何らかの解決を図る必要がある.想定される理由のひとつとして,投与した試料に含まれる異常蛋白の量の問題がある.・上記の問題に関連して,recipientとしてマウスを使用する場合のrecipient側のバイアスを減らす必要性が高まった.そこでヒトと同様,成体において3R-tau/4R-tauの両方のアイソフォームを脳で発現するマウスの作製を開始した.現在,ヒトtau遺伝子のリピート部位のノックインを試みているが,インジェクションの後,導入遺伝子が発現している仔マウスの出生発育がなかなか得られないでいる.・従来,剖検脳病理組織標本における異常リン酸化TDP-43検出において,マウス抗体より感度に優れるウサギ抗体(2007~2008年作製)を使用していたが,しばしば背景の非特異染色が生じていた.25年度に,長らく共同研究を行っている長谷川が新たなウサギ抗体を作製し,この非特異染色の問題の解消と検出感度の向上の両方が得られた.それに伴い,これまでに蓄積されてきた症例の再検討が必要になり,現在,進めている.
・ヒト剖検脳から抽出した異常蓄積蛋白(Sarkosyl不溶画分)によるシード効果を高め,安定して培養細胞における凝集体形成促進が生じるための方法論的改良を図る.疾患剖検脳Sarkosyl不溶画分には多種多様の不溶蛋白が含まれており,標的とするtauやαsynuclein,TDP-43はむしろ量的に小さな割合しか占めていないと推測される.免疫沈降による精製は,求められる収量の問題から実用的ではない可能性が高いが選択肢のひとつではある.Tauとαsynucleinについては加熱処理等による濃縮は試みても良い方法のひとつと考えられる.また,上述したような病理標本の所見の再検討を進め,凍結試料を保有している症例の中から(前年度の基盤整備によりこの部分は容易になった),できるかぎり病変密度の高い例,高い部位を見出すことで,いくらか状況が改善されると思われる.・recipientのうち動物モデルについては,3R-tau/4R-tauの両方のアイソフォームを脳で発現するマウスを作製する実験を継続する.問題点の解決方法として,まず培養細胞を用いてノックインの効率について,たとえば複数の異なるヌクレアーゼを用いる等のプロトコール上の再検討を行ってみる.そこで最も効率の良いプロトコールが得られたらそれを使用して,再度マウスへのノックインを試みる.・26年度が最終年度であり,上記のような問題が存在する中で,異常蓄積蛋白質の伝播について,疾患脳において本当にそのようなプロセスが進行しているかどうかを検証しうる,あるいは少なくとも推測しうるエビデンスの抽出に努める.
培養細胞モデルに関しては剖検脳由来のシード調製の(おそらくは試料中の異常凝集蛋白の割合が低いことによる)問題が明らかになり,投与実験に移行できなかった.マウスモデルについては当初予定していた既存モデルには本研究を遂行するにあたり改良すべき点があることがわかり,改良モデルの作製を開始したが,その実験がまだ途中である.そのため,やはりシード投与実験を開始せずにいる.一方,剖検脳の病理学的(生化学的および組織学的)解析にもとづく,伝播仮説の検証はほぼ計画通り進行しているが,リン酸化tauを除き,オリジナルあるいは共同研究者の作製による一次抗体を主として使用することにより,予定していた研究費をモデル実験に振り分けることが可能になった.免疫組織化学染色のための基本試薬,および一次抗体の購入,生化学的解析(分画やimmunoblot)のための試薬類の購入,論文のmethod欄に出てこない技術的ノウハウ入手のための学会参加,症例データの臨床情報と病理診断の結果をデータベース化するための人件費
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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