研究課題/領域番号 |
24500434
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
藤井 聡 山形大学, 医学部, 教授 (80173384)
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研究分担者 |
山崎 良彦 山形大学, 医学部, 准教授 (10361247)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シナプス可塑性 / アデノシン受容体 / LTP / LTD / 海馬 |
研究概要 |
申請者らは平成24年度に実施した実験において、低周波数シナプス入力に対する興奮性シナプス応答とシナプス可塑性との関連を解析した。海馬CA1領域の興奮性シナプス間隙に蓄積するアデノシン濃度は、シナプス入力周波数および時間に応じて変化する。海馬スライスCA1シナプスに1-5Hzを入力して誘導するLTPおよびLTDを誘導し、アデノシンに対するA1ないしA2受容体の親和性の違いに着目しながら、これらシナプス可塑性へのアデノシンA1およびA2受容体選択的阻害薬の効果を検討した。 1Hzでシナプス入力する場合、入力時間が40-80秒であればCA1シナプスではLTPが誘導され、同時にA1受容体阻害薬を投与するとLTDが誘導された。5-10Hzで200秒シナプス入力した場合LTPが誘導されたが、A1受容体阻害薬存在下ではLTP誘導は抑制された。一方、1Hz3分以上シナプス入力した場合はLTDが誘導され、LTD誘導にA1およびA2受容体の関与が示唆された。 これらの結果から、海馬CA1シナプスに低頻度入力すると、短時間ではシナプス間隙に放出されて蓄積したアデノシンは低濃度に留まり、高親和性A1受容体を活性化してLTP誘導を促進したと結論した。また、シナプス入力が3分以上にわたるとシナプス間隙のアデノシン濃度が上昇してA1受容体のみならず低親和性A2受容体を活性化してLTD誘導に関与した、と結論した。 低頻度・短時間のシナプス入力時に興奮性シナプスにおいてアデノシンA1受容体を抑制すると、シナプス前終末からのグルタミン酸放出が増大し、NMDA型受容体のみならず代謝型グルタミン酸受容体が活性化してLTDが誘導されると推測された。また、低頻度シナプス入力が長時間に及ぶと、シナプス後細胞でA2受容体が活性化されてLTD誘導に関与する、と推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海馬CA1領域の興奮性シナプスに1-10Hzで低周波入力すると、入力周波数および時間に応じて興奮性シナプスのアデノシンA1ないしA2受容体が活性化し、シナプス可塑性誘導に影響を与える可能性がある。本研究では、この効果を、CA1錐体細胞をホールセル記録して導出したEPSCないし集合EPSPを指標として、薬理学的手法を用いて検討する、とした。 申請者らは交付申請書において、「海馬CA1領域の興奮性シナプス間隙に蓄積するアデノシン濃度は、シナプス入力周波数および時間に応じて変化する。アデノシンに対するA1およびA2受容体の親和性の違いに着目し、低周波数入力で誘導されるシナプス可塑性メカニズムへの関与を検討する。5-10Hzで数十秒シナプス入力する場合は、シナプス間隙のアデノシン濃度が著しく上昇して低親和性A2受容体を活性化して、シナプス前からグルタミン酸放出の増強ないし低頻度入力時のシナプス後細胞脱分極の増強が生じ、LTP誘導が促進されると予想される。」と記載した。 この予想について平成24年度に検証し、その結果においては予想を覆す新たな知見が得られた。すなわち、CA1錐体細胞から導出するEPSC、放線層から計測されるfield EPSPにおいて、短時間のシナプス入力時はアデノシンA1受容体が活性化してLTP誘導が抑制される、低頻度シナプス入力が長時間に及ぶとA2受容体が活性化されてLTD誘導に関与する、という結果である。従って、低頻度シナプス入力で誘導される海馬LTPおよびLTDへのアデノシン関与メカニズムについて新たな知見が得られたものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、海馬スライスCA1ニューロンにおいて低頻度刺激で誘導したLTPおよびLTDへのアデノシンA1受容体およびA2受容体の関与メカニズムについての研究を深化させる予定である。 さらに、次年度から最終年度にかけて、海馬スライスCA1ニューロンにおいて高頻度バースト刺激で誘導したLTPへのアデノシンA1受容体およびA2受容体の関与メカニズムについての研究を行う予定である。海馬CA1領域で、興奮性シナプス入力をバースト刺激すると、興奮性ニューロン軸索終末と抑制性介在ニューロン間のシナプスでアデノシンが作用して、LTP誘導が修飾されると予想される。内因性アデノシンは、錐体細胞がバースト発火している際に、錐体細胞と抑制性介在ニューロンで形成されるシナプスでA1受容体の活性化を通じて、グルタミン酸放出を阻害しシナプス間隙のグルタミン酸濃度を制御している可能性がある。抑制性介在ニューロンをバースト刺激で興奮させる際に、A1受容体を抑制するとシナプス前終末からのグルタミン酸放出が増大し、mGluRs活性が増大して抑制性ニューロン活動が増強すると予想される。次年度および最終年度においては、同メカニズムの解析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
「該当なし」
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