研究課題/領域番号 |
24500434
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
藤井 聡 山形大学, 医学部, 教授 (80173384)
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研究分担者 |
山崎 良彦 山形大学, 医学部, 准教授 (10361247)
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キーワード | LTP / depotentiation / LTD / hippocampus / adenosine / interneuron / NMDA receptor / CA1 |
研究概要 |
海馬内のニューロンは、集団では低周波数で同期して興奮しつつ、個々がバースト発火している。従って、海馬内のニューロンは、バーストと低周波が混在したシナプス入力を受けて、シナプス可塑性が誘導されている、と考えられる。 本研究は、海馬CA1領域で興奮性シナプス可塑性が誘導される際に、「シナプス入力の周波数がどのように弁別されて、シナプス伝達効率の増減に変換されるか」の機序への、内因性アデノシン関与の可能性について、の検討を目的としている。 平成24年度研究では、100Hzの高頻度バースト入力時に低濃度の内因性アデノシンがA1受容体を介して抑制性介在ニューロンを抑制し、興奮性ニューロンの脱分極を促進することで、「長期増強(LTP)誘導が促進する」こと、を明らかにした。 平成25年度研究では、1Hzの低周波数シナプス入力時に低濃度の内因性アデノシンが、シナプス後細胞の脱分極を抑制しシナプス伝達抑圧を減弱させることを明らかにした。海馬CA1領域において、Schaffer collateral-CA1錐体細胞間シナプスに1Hz低周波入力した場合、アデノシンは高親和性A1受容体を活性化してシナプス後細胞の脱分極を抑制し、NMDA受容体活性化を阻害してシナプス伝達効率の抑圧を減弱させる、と考えられた。この効果は、前もって当該シナプスにバースト入力してLTPを誘導しておくと顕著であった。即ち、内因性アデノシンは、LTPを誘導したシナプス経路にその後に低頻度入力を与えて誘導するLTP消去(depotentiation)を抑制した。 以上、高頻度ないし低頻度シナプス入力に際してニューロンないしグリアより放出された内因性アデノシンはA1受容体を介して、高頻度シナプス入力によるLTP誘導を促進しつつ、低頻度入力によるdepotentiationを抑制することで、シナプス伝達効率の増強の維持に作用する可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「シナプスは入力周波数・入力時間を弁別して可塑性の方向を決定する」可能性がある。脳においてネットワーク全体としては低周波数で同期して興奮しつつ、ニューロン個々は高周波数でバースト発火している。ネットワークを形成するニューロンのシナプスには、高周波バーストと持続的な低周波入力が混在しながらシナプス可塑性が誘導され、これが「記憶情報」として蓄積される。本研究の目的は、脳シナプスのネットワーク形成の細胞レベルでのメカニズムである海馬シナプス可塑性に内因性アデノシンがどのように関与するか、の解明が目的である。 過去の研究において、海馬CA1領域において高濃度(1マイクロモル以上)の内因性アデノシンは、A1受容体を介してLTP誘導を抑制しつつdepotentiationを促進することでシナプス伝達効率を均一化させる、という結果が報告されていた。一方で、本研究では、海馬CA1領域において低濃度(100ナノモル)の内因性アデノシンは、A1受容体を介してLTP誘導を促進しつつdepotentiationを抑制することでシナプス伝達効率を増強させる、という結果を得て、そのメカニズムを明らかにしつつある。低濃度内因性アデノシンによるシナプス可塑性誘導への関与とそのメカニズムについて得られた新知見をもとに、本研究はおおむね順調に進展していると言える。 現時点では、内因性アデノシンが濃度の違いによりLTP誘導やdepotentiationに対して効果を逆転させる機序、が明らかではなく課題が残されている。この点は平成26年度の研究課題である。
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今後の研究の推進方策 |
海馬CA1領域の興奮性シナプス間隙に放出・蓄積する内因性アデノシン濃度は、シナプス入力の周波数に応じて変化する、と考えられる。今年度(平成26年度)A1およびA2受容体のアデノシン親和性の違いに着目し、低周波数ないし高周波数のシナプス入力で誘導されるシナプス可塑性メカニズムへの低親和性A2受容体の関与を検討する。 5-10Hz数十秒の低頻度入力刺激は、海馬Schaffer collateral-CA1錐体細胞間シナプスでLTPを誘導するが、長期抑圧(LTD)やdepotentiationは誘導しない。5-10Hzの低頻度刺激で誘導するシナプス可塑性に対する、アデノシンA2受容体の関与についてを今年度の研究課題とする。5-10Hzで数十秒シナプス入力する場合は、抑制性介在ニューロン-CA1錐体細胞間シナプスないしSchaffer collateral-CA1錐体細胞間シナプスのシナプス間隙の内因性アデノシン濃度が著しく上昇して高親和性A1および低親和性A2受容体を活性化することが予想される。また、海馬CA1興奮性シナプスに100Hzのバースト入力した場合、内因性アデノシンはA2受容体を活性化させる可能性があり、A2受容体の活性化がLTP誘導に対してどのような効果を持つか、その作用機序はいかなるものか、を明らかにする。
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