研究課題/領域番号 |
24500439
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
田村 英紀 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (80437516)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プロテオリシス / シナプス / 神経可塑性 / 海馬 / セリンプロテアーゼ / 抑制性伝達 |
研究概要 |
プロテアーゼによる神経栄養因子や接着分子、受容体などのシグナリング因子のプロセシングは、これら因子の機能制御に重要である。特に、細胞外プロテアーゼによる神経活動依存的な蛋白質切断機構が、哺乳類の神経可塑性調節や、さらにヒトの精神活動などに関与することが示され、これらの分子機構の解明が求められている。本代表者は以前に、細胞外セリンプロテアーゼ・ニューロプシンが統合失調症脆弱因子Neuregulin-1(NRG-1)を特異的に切断することを見出した。本研究では、このプロテオリシスの後続の分子メカニズムを明らかにし、この機構がどのような生理的機能に関与しているのかを探索する。本年度はまず、ニューロプシンによる切断によって生じたNRG-1 切断フラグメント(processed NRG-1:pNRG-1)の標的分子を明らかとするために、ビオチン標識したpNRG-1 ペプチドを麻酔下マウス海馬に投与し、その局在を調べた。その結果、ビオチン陽性反応は、抑制性のパルブアルブミン陽性細胞に発現しているErbB4 受容体の陽性反応と共局在した。また興味深いことに、ビオチン陽性を示したパルブアルブミン陽性細胞で、細胞内蛋白質のチロシン残基のリン酸化が確認された。このことは、pNRG-1 ペプチドが、ErbB4 受容体を介して、抑制性細胞の細胞内シグナル伝達の活性化を誘導することを示している。これらのことから、ニューロプシンが抑制性伝達に関与していることが考えられたので、ニューロプシン遺伝子欠損マウスの抑制性シナプス伝達を測定したところ、これが有意に減弱していた。さらに、pNRG-1 ペプチドはこの障害を回復した。これらのことは、ニューロプシンによるNRG-1 の限定解裂機構は、抑制性活動の制御に極めて重要な役割を果たすことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画に記載したことは全て実行し、NRG-1 切断フラグメントの局在および生理的効果を示すことができたので。
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今後の研究の推進方策 |
興奮性の神経活動依存的なニューロプシンシ/NRG-1 プロテオリシスシグナリングが生体内においても生じているかどうかを、カイニン酸を用いたてんかんモデルマウスによって調べる。神経活動依存的なNRG-1 の限定切断やErbB4 受容体のリン酸化および抑制性細胞の活動などをニューロプシン遺伝子欠損マウスを用いて解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
NRG-1 切断フラグメントの解析時の条件検討が、的確だったために、当初予定していた研究費を大幅に削減できた。来年度は、生体内でのニューロプシンシグナリングを、海馬スライスを用いた免疫組織化学法によって検討する予定である。そこで、本年度で生じた未使用研究費と、来年度以降に請求する研究費とを合わせ、脳スライスを作成するリニアスライサーを購入する予定である。
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