研究課題
我が国第1位の失明原因疾患である緑内障は、視神経を構成する網膜神経節細胞が変性・消失する進行性の視神経変性疾患である。現在、本疾患に対し臨床的に治療効果が確認されているのは眼圧下降のみであり、治療薬も限られているため、新たな作用機序を持つ治療薬の開発が望まれている。ヒト緑内障で誘導される視神経変性の要因の一つとしてグルタミン酸興奮神経毒性がある。研究代表者は以前、グリア細胞から放出されるアポリポ蛋白(アポ)Eを含むリポ蛋白が細胞内シグナル伝達系を介して、網膜神経節細胞の栄養因子欠乏性細胞死に対し、保護効果を発揮することを明らかにした。そこで本研究では、ラット新生児から網膜神経節細胞を初代培養し、グルタミン酸興奮神経毒性に対するアポE含有リポ蛋白の神経保護効果を検討し、緑内障治療への応用の可能性を探った。リポ蛋白による神経保護効果の局在の検討には、コンパートメント培養法を使用した。本研究の結果、アポE含有リポ蛋白がリポ蛋白受容体に結合しグルタミン酸受容体を介した細胞内へのカルシウム流入を抑制することで神経細胞を保護することが明らかとなった。コンパートメント培養法を用いた研究の成果から、この神経保護機構は軸索部分ではなく、細胞体近傍部で発揮されることも示された。また血液から単離したアポE含有リポ蛋白を緑内障モデルマウス(グルタミン酸-アスパラギン酸トランスポーター欠損マウス)の硝子体内に投与することで、網膜神経節細胞を保護することができた。これらの結果から、アポE含有リポ蛋白の神経保護機構は緑内障治療に応用できる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的である「初代培養網膜神経節細胞におけるリポ蛋白受容体を介した神経保護機構の解明」について、本年度の研究により部分的であるが解明を進めることができた。コンパートメント培養法によって、神経保護機構の細胞内局在を明らかにすることもできた。またin vivoでの神経保護効果を人工再構成リポ蛋白だけでなく、血液由来リポ蛋白で確認した。これらから本研究は、おおむね順調に進展していると判断する。
交付申請書の研究実施計画に記載した通り、これまでの研究結果をもとに緑内障治療の候補薬を選定し、緑内障モデル動物に対して保護効果を検討する。またアポE含有リポ蛋白の神経保護機構の詳細な解析を進める。神経保護機構の解析は、初代培養網膜神経節細胞および緑内障モデル動物を使用する。
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Mol Brain
巻: 6 ページ: 22
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