研究課題/領域番号 |
24500443
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
中村 史雄 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (10262023)
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研究分担者 |
橋本 博 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 准教授 (40336590)
山下 直也 横浜市立大学, 医学部, 助教 (40508793)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | セマフォリン / Sema3A / CRMP1 / フィラミン / Filamin-A |
研究概要 |
1.Filamin-A全長とCRMP1の相互作用:CRMP1はFilamin-AのN末端(ABD)とC末端(Ig24)に結合する。ELIZA実験系を用いてCRMP1とFilamin-A全長の相互作用を定量的に検討した。固相化したCRMP1野生型にFilamin-A全長は解離定数(Kd) 0.08~0.6μMの強さで結合した。一方Filamin-AのCRMP1結合部位に変異を導入したFilamin-A(93-96A)変異体はKd 1~3μMの低い親和性を示した。同様の親和性低下はCRMP1のFilamin-A相互作用部位に変異を導入したCRMP1(N247A)変異体においても認められた。 2.リン酸化摸倣変異体による検討:CRMP1はCdk5により522番目Serがリン酸化される。リン酸化摸倣変異体・CRMP1(S522D)を強制発現させた脊髄後根神経節細胞の約20%は、Sema3Aの作用に似た成長円錐退縮応答を示した。Filamin-AのRNAiはこの作用を打ち消した。さらにCRMP1(S522D)はCRMP1野生型より高い親和性でFilamin-Aに結合した。 3.CRMP1-Filamin-A複合体の立体構造観察:Filamin-A全長及びCRMP1(S522D)を精製し、それぞれの単体及び複合体を原子間力顕微鏡により観察・測定した。Filamin-Aは2つの紐がC末端Ig24でつながり全長180nm程度の長く伸びた紐状形態を示した。またCRMP1(S522D)4量体は直径12nmの小さな粒子を示した。ところがFilamin-A・CRMP1(S522D)複合体は長径80nm程度の長円型を示した。 これらの事実からSema3A刺激によりリン酸化されたCRMP1は、Filamin-AのN末端及びC末端に結合してFilamin-Aの立体構造を変化させると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度の研究計画においては、以下の4項目である。1)Filamin-A-ABDのCRMP1相互作用部位の決定、2)相互作用部位のbioassayによる検証、3)Filamin-A全長とCRMP1相互作用部位の検証、4)Filamin-A全長とCRMP1複合体の電子顕微鏡による相互作用検討 1)と3)の相互作用部位は決定した。2)の検証も主にSema3Aによる退縮応答を用いて行った。 4)については電子顕微鏡ではないが、原子間力顕微鏡を用いて複合体の形態変化を見いだしている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、1)Filamin-Aのアクチン結合領域(ABD)とCRMP1の複合体の結晶解析、2)Filamin-A部分ペプチドによるSema3A退縮応答の抑制、3)CRMP1-C末端によるCRMP1本体の機能制御機構の解明、4)CRMP1-Filamin-A相互作用の大脳皮質細胞移動への関与、の4つを提示している。 今後は1)を中心に共同研究者と共に進める。ABDについては大量発現系が確立しているが、CRMP1はまだ確立していない。Filamin-Aと相互作用能の高いCRMP1(S522D)について精製度の高い標品を得て、複合体結晶化を検討する。 2)、3)は主研究者が、ELIZAの結合実験系、脊髄後根神経節のSema3A退縮応答などの従来の実験系を用いて検討する。 4)は予備的な実験では大きな変化が見いだせなかったので、Sema3AやCRMP1が関与する大脳皮質錐体細胞の樹状突起やSpine形成について、Filamin-Aの関与を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)の結晶化には、最適な発現クローンの構築、大腸菌発現系の発現条件検討、カラム精製の条件検討、複合体の結晶化条件の検討などに研究費を充当する。また得られた結晶のX線解析についても研究費を充当する。 2)ではペプチドを用いた実験が主体になる。大腸菌発現系で発現・精製できるものはこの系を用いるが、精製困難なものについてはペプチド合成を依頼する。またニワトリ卵やマウス胚の培養神経細胞を用いてペプチドの機能評価を行うので、実験動物、培養容器、試薬、遺伝子・ペプチド導入試薬に研究費を充当する。 3)もペプチド合成以外は2)とほぼ同様である。 4)はマウス胚大脳皮質由来の初代培養神経細胞を主体に用いる。野生型マウスの購入、CRMP1やSema3A変異マウスの系統維持、培養容器や培養試薬、遺伝子導入試薬などの消耗品に研究費を充当する。 その他、これまでの成果を論文として発表するため、英文校閲や投稿・掲載料への研究費充当を予定している。 次にH24年度繰越金(344,259円)について説明する。複合体結晶化準備のため、大腸菌発現系を用いてFilamin-A・ABD領域及びCRMP1全長の大量発現・精製を試みた。ABDは結晶化に適した純度の標品が得られた。しかしCRMP1は部分分解や精製後の夾雑物の混入が多く、さらなる検討を必要とする状況である。すなわちCRMP1の精製実験を継続し、その消耗品の手配が必要となるため次年度へ繰り越した。このH24年繰越金は、Filamin-A・ABDとCRMP1の結晶化実験に用いる消耗品・試薬に主に充当する。次年度は1)の結晶化に力点を置く。
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