研究実績の概要 |
ムスカリン性アセチルコリン受容体アゴニスト,ピロカルピンを腹腔内投与したマウスには一過的なてんかん重積が生じる。その後1週間以内に自発的てんかん発作と不安様行動を引き起こすようになる。このマウスの明暗選択テストによる不安様行動の強さと海馬における脳神経栄養因子(BDNF)の発現量は正の相関を示す。In situ ハイブリダイゼーション法を用いてBDNFの発現解析を行ったところ、海馬CA3領域でBDNF発現の増加が観察された。この発現増加は神経細胞によるものであり、グリア細胞における発現増加は検出できなかった。 てんかん発作が持続するとヒトでは海馬硬化症などの変化が起きる。そこでピロカルピン処理1~2ヶ月後のマウスの解析も行った。ピロカルピンによるてんかん重積を4.5時間で停止したマウスでは1~2か月後でも不安様行動を示し、海馬におけるBDNF発現も増加していた。またアストロサイトの増加も見られたが不安様行動の強さとの相関は見られなかった。さらにピロカルピン処理1~2ヶ月後のマウス脳をイムノブロット法と免疫組織化学染色法を用いて解析したところ、CA3錐体細胞がCa結合タンパク質カルレチニンを発現するようになるという興味深い結果を得たが、その生理的・病態的意義の解析を今後の課題である。 また本課題研究期間を通じて、特異抗体作製および実験手法の改良によるmatureBDNF, proBDNFのELISAの高感度化を行った。その結果、血清中のmatureおよびproBDNFや海馬からマイクロダイアリシス法で回収したサンプル中のBDNFを定量することが可能になった。この成果は、脳高次機能に重要な役割を果たしているBDNFの研究促進に寄与できると考えている。
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