研究課題
Msi1は神経幹細胞を始めとした未分化細胞に発現し、未分化状態の維持と成熟細胞への分化を制御するRNA結合蛋白質である。それら幹細胞・前駆細胞は、再生医療を実現する上で非常に重要な研究対象であり、その未分化・分化を司ると考えられるMsi1の詳細な分子機構を明らかにすることは、社会的にも非常に重要なタスクである。Msi1は標的mRNAに配列特異的に結合し、その翻訳を制御することで機能を発揮することが明らかにされている。しかし標的となるmRNAをはじめ、その分子機構には未知の部分が数多く残されている。我々はこれまでに、試験管内スクリーニングを行うことで、細胞遊走に関与 するDcx、また神経回路形成に関与するDccを、Msi1の新規標的候補遺伝子として報告してきた。本研究では、さらにMsi1の新規標的mRNAを同定すると共に、標的候補因子Dcx, Dccについて、Msi1が中枢神経幹細胞の分化にあたり、どのような制御を行っているかを明らかにすることで、幹細胞の性質解明と再生医学的利用価値の追求を目的とした。これまでの生化学的、細胞生物学的検討により、Dcx、Dcc共にin vitroにおいて特異的なMsi1のターゲットmRNAであり、翻訳レベルでの発現抑制を受けることを証明することができた。しかしながらDcxに関しては、Msi1ノックアウトマウスを用いた解析を行ったが、目立った表現型の変化を観察することができなかったため、本年度は特にDcc遺伝子に着目して解析を進めた。昨年度における検討により、DccがMsi1と特異的に相互作用し、その翻訳を抑制することを証明したが、本年度は更に、レポータージーンアッセイによる翻訳抑制分子機構の解析、アトラクションアッセイによる軸索誘導の機能的解析を行うことができた。今後は更に、in vivoでの解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
当初のプランとしてリストアップしていたin vitroでの解析に加え、レポータージーンアッセイ、および神経軸索のアトラクションアッセイによる機能解析といった、Msi1タンパク質とDcc遺伝子に関するより詳細、かつ生理的に意義のある解析を行うことができた。これにより、Dccはより確度の高いMsi1ターゲットであると言うことができた。しかしながら、Dcx遺伝子に関しては、Msi1ノックアウトマウスを用いたin vivo解析から、in vitro解析の結果とは対照的にMsi1の特異的標的であることを示す良好な観察結果を得ることはできなかった。したがって、今後はDccにより注力した研究を、特にin vivoにおいて行うことが望ましいと考える。また共同研究者の解析においても、神経回路形成に関する他の重要な知見が得られており、今後はMsi1を軸とした神経回路形成の統合的理解を深めていくことができると考えている。
In vitroおよび培養細胞を用いたアッセイを当初の計画以上に詳細に行うことで、Msi1のDcc遺伝子に対する分子レベルの機能解析を詳細に進めることができ、生理的に意義のある結果を得ることができた。Dcx遺伝子に関しては、Msi1ノックアウトマウスを用いたin vivo解析において良好な結果を得ることができなかったため、今後は、Dcc遺伝子を軸にin vivoでの解析を進める。その為には、Msiパラログ遺伝子の機能的代償なども視野に入れ、包括的な機能解析を行いたいと考える。また、更なる新規標的の機能解析や、これまでも行ってきたように、マウス以外の種における解析なども進めることにより、Msi1のより詳細な機能を明らかにしていきたい。
今年度大きな次年度使用額が生じた理由は、1)先行してin vivo解析を行ったdcx遺伝子で良好な結果が得られなかったため、当該年度はin vivo実験の量が計画よりも少なくなったこと。2)in vitroの実験に用いた試薬類が、既存および昨年度購入のものを多く使用することができたこと。3)主たる支出者である研究代表者が年度内に所属が変更となった為、実験の中断期間が生じたこと。などが挙げられる。最終年度は、dcc遺伝子のin vivo解析に特に注力するため、これまでよりも大きな額の資金が必要になると考えられ、本年度生じた繰越金を有効に使用できると考える。また最終年度である為、成果報告のための学会発表、論文作製・投稿等にも費用がかかると考えられる。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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