研究課題/領域番号 |
24500449
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
馬場 広子 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (40271499)
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キーワード | 神経科学 / リードスルー / 翻訳 / ミエリン / 脳・神経 |
研究概要 |
末梢神経系ミエリンはシュワン細胞によって形成され、ヒトでは脱髄を伴う免疫性あるいは遺伝性末梢神経障害が知られている。申請者らは、末梢神経ミエリン特異的タンパク質であるMyelin protein zero (P0 or MPZ) mRNAのstop codon読み飛ばしにより通常のP0より大きいL-MPZが産生され、慢性脱髄性疾患患者やモデル動物の血清中に抗L-MPZ特異抗体が高率に存在することを見出した。脊椎動物の正常組織においてstop codon読み飛ばしで単一のmRNAから複数の機能分子が産生される例は報告がない。そこで、本研究では、1,この分子の正常ミエリンにおける機能を明らかにし、2.脱髄性疾患との関連性を調べ、3.stop codon読み飛ばし機構の解析とL-MPZを用いた読み飛ばし候補化合物評価系の確立を目的とした。本年度の実績は下記のとおりである。 1.L-MPZの細胞接着に対する機能とリン酸化との関連性を明らかにする目的で、L-MPZ cDNA、P0 cDNAおよび2箇所のリン酸化部位にそれぞれ変異を入れたcDNAを長期的に発現することができる安定発現細胞を樹立した。 2.患者で検出される抗L-MPZ抗体と末梢神経障害との関連性を調べる目的で、抗L-MPZ抗体を持つラットを作製し、リゾレシチン脱髄時の脱髄巣の検討を行った。その結果、抗L-MPZ抗体存在下でも、急性期における脱髄巣の大きさ自体には影響しないことがわかった。抗体は主として慢性に脱髄を生じる患者で見られることが多いため、引き続き慢性期における抗体の関わりを検討中である。 3.当初目的とした、L-MPZを利用した読み飛ばし候補化合物の評価系はすでに確立した。また、この系を用いて前年度にL-MPZ mRNAのストップコドン前後の配列と読み飛ばし効率との関連性を明らかにしたため、現在、論文準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実験計画では、1.L-MPZのミエリンにおける機能の解析、2.脱髄病態におけるL-MPZの役割の検討、3.L-MPZ産生に対する読み飛ばし機序の関与と読み飛ばし薬候補化合物評価系の確立を予定した。このうち、3に関しては、すでにmycをN末につけたP0 cDNAを前年度に作製したことにより、myc抗体を用いた読み飛ばし効率の解析が可能となったため、当初の目的に到達している。また、この系を用いて読み飛ばし効率を比較した結果、stop codon前後の配列が読み飛ばし効率に重要であることを前年度に明らかにしたため、現在、論文準備中である。1に関して、L-MPZの機能、特に細胞接着に関する機能を調べるために、前年度にコンストラクトを終え、強制発現系を用いた接着実験を行う予定であった。しかし、一過性発現系では発現効率の問題等により接着実験を行うことが困難であったため、これらのcDNAをpEB-Multiベクターに入れ替え、L-MPZあるいはリン酸化部位を変異させたL-MPZの安定発現細胞をそれぞれ新たに樹立した。このため、当初の計画から多少の遅れが出ている。2に関しては、L-MPZ抗体と脱髄との関連性に関して、引き続き実験中である。以上の理由から、一部遅れはあるものの、当初の計画どおり親展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.L-MPZの末梢神経ミエリンにおける機能:今回作製した各種L-MPZ関連cDNAの安定発現細胞を用いて、これらの細胞の細胞接着能を解析し、L-MPZの細胞における役割を明らかにする。また、毒性の強いG418に代わる読み飛ばし促進薬をミエリン形成期の動物(マウス、ラット)に投与することにより、P0 mRNAの読み飛ばし効率を変化させ、ミエリン形成への影響を調べる。2.脱髄性疾患との関連性:引き続き、L-MPZ抗体価を上昇させたマウスの坐骨神経にリゾレシチンを投与し、慢性期の脱髄病巣の大きさおよび再ミエリン化における影響を調べる。また、L-MPZ抗体による病巣の拡大あるいは修復促進にはマクロファージを介する可能性があるため、脱髄巣の状態を比較すると共に、抗体の有無により脱髄巣のマクロファージのタイピングにどのような変化が生じるかを免疫組織化学的に比較検討する。3.stop codon読み飛ばし機構の解析とL-MPZを用いた読み飛ばし候補化合物評価系の確立:無細胞翻訳系を用いた評価系はすでに作製済みで、G418添加の有無による読み飛ばし効率の違いもすでに測定済みである。今年度は、1で用いる予定の候補化合物に関して実際に読み飛ばし効率を調べ、この系の実用性を確認する。
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