研究課題
基盤研究(C)
褐色で不溶性のメラニン様色素(ニューロメラニン、NM)は、ヒトやほ乳動物の中枢神経系に存在する褐色色素である。NMは、中脳黒質および青斑核のカテコールアミン作動性ニューロンに存在するが、非カテコールアミン作動性ニューロンである被殻、前運動野皮質、小脳などにもNM様色素が存在することを以前報告した(2008)。しかしながら、毛髪、皮膚メラニンとは対照的にその構造や機能は単離の困難さや適切な生化学的モデル化合物がないため不明な点が多い。NMの構造は、DA:Cys (2:1)から合成された合成NMを100℃で8時間加熱した構造に近いことを報告したが、まだまだ不明な部分がある(2012)。我々はすでにメラニンの化学分解におけるメラニンマーカーとして、DOPA由来から4-アミノ-3-ヒドロキシフェニルアラニン(4-AHP)、DA由来からは4-アミノ-3-ヒドロキシフェニルエチルアミン(4-AHPEA)を合成した。しかしながら、NM中には、DA、DOPA由来のメラニン以外にDOPAC、DOPAL、DOPEなども含まれていることが知られている。よって、これらのカテコール類から合成されるメラニンのマーカーを新たに合成した。DOPAC由来メラニンのHI水解により得られる4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル酢酸(4-AHPAC)は以下の方法で合成した。m-ヒドロキシフェニル酢酸を硝酸で反応させ、ニトロ体を合成し、このニトロ体をHIで還元し、得られた混合物をDowexカラムで分離後4-AHPACを得た。DOPE由来のメラニンマーカー、4-アミノ-3-ヒドロキシエチルベンゼン(4-AHEB)は、m-エチルフェノールのニトロ化後、ニトロ体をHI還元、Dowexカラム分離して合成した。DOPALについては、現在合成を検討中である。
3: やや遅れている
メラニンマーカーの合成に思わぬ時間がかかっている。これは、DOPALが非常に不安定なため、純度よい化合物を合成できてないためである。しかし、これはそのうち解決できるものと考えている。一方、共同研究者のZecca博士からのニューロメラニン(NM)のサンプルの供給も遅くなっている。このサンプルは、色々な年齢のヒトのNMサンプルであり、NMのagingによる構造変化を調べるためのものである。しかしながら、これも最近のE-mailの連絡から近いうちに送付できるとの連絡があった。
NMとタンパク(例えばBSA)と反応させて、得られたEuBSA(DA由来のメラニンとBSAとのcomplex)とPheoBSA(DA-Cys由来のメラニンとBSAとのcomplex)のメラニン含量を調べる。さらにここにFeイオンを加えた場合、どうなるかを調べる。これらのメラニンの合成は、L. CasellaによるJ. Biol. Inorg. Chem (2012)での方法に従って、合成する。つづいて、得られたNM-BSA complexを用いて、加熱処理によるagingのシュミレーションを行い、天然のNMと比較する。つづいて、被殻、前運動野皮質、小脳などの非カテコール作動性ニューロンに存在する色素の構造解析を行う。モデル化合物としてもDOPA-Cysメラニンを合成し、化学分解して得られる分解生成物から天然の色素と比較を行う。
NMの化学分解で得られた生成物のうち、上記分解生成物以外の微量物質をHPLC-MS/MSスペクトルにより同定する。これにより、NMのより詳細な化学構造を推定する。合成NMの三次元構造の解明を行うために、Simonグループにより開発されたメラニン表面の酸化電位測定法を上記の合成NMに適用する。すなわち、種々の比率のDAとCys、DOPAとCys、DOPACとcysからそれぞれCys-DA、Cys-DOPA、Cys-DOPACメラニンを合成し、その表面活動電位をSimonグループが測定することにより、Casing modelを証明する。また、NM中のDHBT-1の含有量を測定するとともに、NM以外の被殼、前運動野皮質、小脳などにDHBT-COOHおよびDHBT-1が含有されているかどうかを塩酸水解後、HPLCにより確認する。DHBT-COOHとDHBT-1は塩基性条件下、Cys-DOPA、Cys-DAからそれぞれ合成後、イオン交換樹脂により精製して得る。DHBT-1の発見は新知見であり、合成NM (DA+Cys-melanin)、さらには天然NMを用いて、DHBT-1が結合することを確認する。
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