研究課題/領域番号 |
24500453
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研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
川口 禎晴 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 発生障害学部, 主任研究員 (00450833)
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キーワード | HDAC6 / 情動障害 / マウス行動実験 / セロトニン / ドーパミン / ミトコンドリア |
研究概要 |
HDAC6(ヒストン脱アセチル化酵素6)欠損がもたらすマウス情動障害様行動異常の原因について、中脳背側縫線核に存在するセロトニン神経細胞のエネルギー代謝異常を疑い検討を進めている。今年度は、細胞レベルでの実験を行う目的で神経系培養細胞のHDAC6ノックダウン細胞を作製樹立した。この細胞においても脳組織でみられたエネルギー代謝異常と同様の現象が観察されたため、より詳細な分子レベルの検討を進めることとした。初め疑問となったのはミトコンドリアに存在しないはずのHDAC6がなぜミトコンドリアのエネルギー代謝(ATP産生)に影響を及ぼすのかについてであるが、多くのHDACの活性を阻害する化合物(HDAC活性阻害剤)も同様にミトコンドリアのATP産生に影響を及ぼすこと、この現象にHDAC10が関与しておりこの脱アセチル化酵素はミトコンドリアに存在すること、HDAC6はこのHDAC10と細胞内で結合する可能性が示唆されたことから、HDAC6はまず細胞質でHDAC10と結合しその働きを調節することによりミトコンドリアのエネルギー代謝に影響を及ぼす可能性が考えられた。 これとは別に本年度は脳内のモノアミンの定量を実施し野生型マウスとHDAC6遺伝子欠損マウスとの比較を行った。その結果、セロトニン量について背側縫線核では野生型と差はみられなかったが、その投射先である黒質や腹側被蓋野においてHDAC6遺伝子欠損マウスでは減少する傾向にあった。このことから黒質や腹側被蓋野のドーパミン神経細胞の働きが不全となっている可能性が考えられ、実際にそれらの投射先である前頭前野や側座核でドーパミン量の低下傾向が観察された。既に我々はこのマウスにドーパミン神経系に依存した行動の異常も観察しており、HDAC6欠損はセロトニン神経系やドーパミン神経系に影響を及ぼし情動障害様行動異常を引き起こすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経系培養細胞のHDAC6ノックダウン細胞が樹立できたことにより、分子レベルでの解析が進んだことや、脳内のモノアミン量を測定したことによりセロトニン神経系だけでなくドーパミン神経系の異常という新しい視点が見出されるに至ったため。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、セロトニン神経細胞やドーパミン神経細胞で起こっている異常をより深く分子レベルで追求しHDAC6の標的となる分子を明らかにしたい。最終的には本研究に基づいた情動障害様行動異常を規定する新たな分子メカニズムを提唱し、ヒトの情動障害の解明や新規治療戦略に役立てたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は動物実験よりも培養細胞実験が主であったため物品費が大幅に減少したこと、旅費やその他の支出が無かったことで次年度使用額が発生した。 次年度は再び動物実験や機器を用いた実験が多くなると予想されるため、必要な物品の購入に使用する。
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