研究課題/領域番号 |
24500454
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
河内 全 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 研究員 (70322485)
|
研究分担者 |
細川 昌則 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 部長 (00127135)
千葉 陽一 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 主任研究員 (30372113)
島田 厚良 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 室長 (50311444)
榎戸 靖 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 室長 (90263326)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | モノアシルグリセロールリパーゼ / ミクログリア / 貪食 / 脂質分解 |
研究概要 |
モノアシルグリセロール分解酵素であるモノアシルグリセロールリパーゼ(MAGL)は、アラキドン酸(AA)等の遊離脂肪酸の産生酵素である。全身性のMAGLノックアウトマウスを用いた実験から、LPS投与によるプロスタグランジン類や炎症性サイトカインの産生が組織レベルで抑制されることが報告されているが、ミクログリアにおけるMAGLの機能は明らかにされていなかった。我々はLPS投与後に右頸動脈結紮術及び低酸素負荷(H/I処理)を施したラット低酸素性虚血性脳症(PVL)動物モデルにおいて、LPS及び低酸素処理によりMAGLの発現が転写レベルで低下することを見出した。上記モデルを模した初代培養系ミクログリアでもLPS及び低酸素処理により同様な変化が認められる。レンチウィルス発現系によりMAGLをノックダウン(KD)した初代培養ミクログリアに通常酸素濃度及び低酸素濃度(1% O2)下でLPS処理を施したところ、IL6、TNFα等の炎症性サイトカインの発現誘導はコントロール細胞と比較して差が見られなかった。またMAGL特異的阻害剤JZL-184を用いた場合も同様な結果が得られた。しかしMAGLKD細胞では突起数が減少し、細胞形態が変化するとともにFcγレセプターを介した貪食能が低下した。内在性MAGLを発現しない株化ミクログリアBV-2細胞にFLAG-MAGLを一過性に発現させると、低酸素及びLPS処理によらずFcγレセプター依存的な貪食能の亢進が見られた。即ちミクログリア内在性のMAGLは貪食能を促進するが、LPS依存的な炎症性サイトカインの誘導には影響を及ぼさないことが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単離したミクログリアをLPS処理後、低酸素条件で培養した場合にMAGLの発現低下が認められたが、蛋白質レベルでは通常酸素濃度においてLPS処理による発現の増加が見られた。LPS投与時のMAG Lノックアウトマウスではミクログリアの活性化とともにサイトカイン産生が抑制されることが報告されていたことから、MAGLと炎症性サイトカイン産生経路との関連が指摘されていたが、単離培養したミクログリアにおいて直接的にMAGLの機能を阻害した場合は予想に反してサイトカイン産生に影響を及ぼさなかった。またミクログリアの活性化に関わる可能性を考慮し、炎症時にも重要な役割を果たすFcレセプターによる貪食能にMAGLが及ぼす効果についてノックダウンや特異的阻害剤処理により解析した。MAGLがFcγレセプターを介した貪食に必須ではないが、促進的に働くことを新たに見出した。この効果は内在性MAGLを発現しないBV2細胞にMAGLを過剰発現させた場合においても見られたが、LPSや低酸素刺激に依存しないことが明らかとなった。貪食過程は高度にエネルギーを必要とするプロセスであり、MAGLによるミクログリア活性化には、脂肪酸遊離を伴うエネルギー産生が関与する可能性がある。実際にミクログリアにおいて、LPS処理時にMAGL上流で脂肪酸産生に関わるホルモン感受性リパーゼ(HSL)の活性化が見られることを確認している。この新たな知見に基づいてMAGLによる脂肪酸遊離によるエネルギー産生機構の制御という側面から今後の研究を展開することを考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
1.ミクログリアにおける炎症誘導時のMAGL発現制御機構の解明 炎症環境下のミクログリアではMAGL蛋白質の発現が変動することから、LPS及び酸素濃度依存的な複雑な発現制御機構の存在が示唆される。Toll様レセプター4で活性化されるJNKやp38MAPキナーゼ等の特異的阻害剤を用いてMAGLの転写レベルの制御に関わるシグナル経路を探索する。またMAGLは推定配列上分解シグナルを有し、その代謝にはプロテアソームによる分解が関与することが知られている。部位特異的変異の導入により種々のMAGL変異体をBV2細胞に発現し、その分解を担う配列を同定するとともに安定化を担う分子機構を明らかにする。 2.ミクログリアの脂質分解経路におけるMAGLの生理機能の解明 MAGLがミクログリアの貪食能の亢進を誘導する分子機構を解析する。遊離脂肪酸はミトコンドリアでのATP産生に重要であり、MAGLの機能阻害は細胞内ATPレベルの減少をもたらし、貪食に必要なエネルギー供給を低下させる可能性がある。ミクログリアのMAGLをノックダウンすることにより低酸素条件やLPS誘導時のADP/ATP比を定量的に解析する。またノックダウンの手法により、LPS及び低酸素刺激時のミクログリアの細胞運動にMAGLが及ぼす影響についてトランスウェルチャンバーを用いた定量的評価を行う。更にMAGの一種である2-AGをリガンドとするカンナビノイドレセプター(CB)のシグナル経路が上記のMAGLが関わる細胞機能に重要であるかについてCB特異的アンタゴニストを用いて検討する。 3.PVL動物モデルにおけるMAGLの機能性の検討 PVL動物モデルにおいて2-AGの分解酵素活性が病変の進行を制御するかについて検証する。具体的には幼獣にMAGL阻害剤を生後に腹腔内投与し、その後にH/I処理を施すことによりPV病変に及ぼす変化を解析する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
低酸素性虚血性脳症におけるMAGLの機能解析を行う上で発現解析やシグナル経路の同定にin vitroのミクログリア単離培養系やグリア共培養系を主に使用する。目的遺伝子の発現やノックダウンにレンチウィルスによる発現系やトランスフェクション試薬を使用するために細胞培養用試薬や培養器具を多く用いる。また分子生物的手法や生化学的手法を用いて、初代培養細胞、株化ミクログリア細胞を用いてMAGLの発現制御メカニズムの解析やその機能を解析するために遺伝子工学・生化学用試薬を多数購入する。またMAGLと同様にミクログリア活性化に関わる abhydrolase domainを持つABHD12等のリパーゼ群の発現解析に用いる抗体作製費用を要する。またPVLモデル動物を用いた検証を行うことより実験動物(マウス、ラット)の飼育費も必要とする。
|