研究課題/領域番号 |
24500456
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
石井 智浩 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (60549947)
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キーワード | オプトジェネティクス / カルシウムチャネル |
研究概要 |
カルシウムシグナルは極めて多くの細胞機能において重要な働きをすることが知られている。本研究ではカルシウムシグナルを光制御できる光遺伝学ツールの作製、及びそのマウス個体への応用を目指している。本年度はこれまでに作製したカルシウムチャネル光スイッチBlue light-activated Calcium Channel Switch (BACCS)を用いて、培養細胞への応用とマウス個体への応用を行った。BACCSをマウス海馬初代培養細胞に遺伝子導入し、時空間的にカルシウムシグナルを制御することを試みた。軸索末端部や特定の樹状突起などの細胞局所に光を照射することで、それぞれの場所でカルシウムシグナルを順次誘導することに成功した。またBACCSを人工カルシウム依存的RhoA遺伝子CaRQと共にHEK293細胞に導入することで、光依存的に細胞骨格を制御することができた。またBACCSを使うことでカルシウム依存的な転写制御因子NFATの核移行を光により制御することにも成功した。次にマウス個体での応用を試みた。BACCSを発現する組換えアデノウイルスをマウスの嗅神経細胞に感染させ、電気生理実験を行った。組換えアデノウイスル感染細胞において有意な応答を測定することができた。BACCSを嗅神経細胞で発現するトランスジェニックマウスも作製し、同様の実験を行った。このマウスにおいては、発現細胞数に個体差が少ないために、組換えアデノウイルスよりも安定した応答を測定することができた。これらの結果はBACCSの動物個体への応用が可能であることを示しており、BACCSが非常に有用な光遺伝学ツールであると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主にカルシウムチャネル光スイッチの応用を試み、in vitroでは細胞骨格制御や転写因子の局在制御、ex vivoではマウス嗅上皮における光による応答の誘導に成功した。これ以外にHEK293T細胞などを用いた遺伝子発現誘導実験や、HIT-T15細胞を用いたインシュリン分泌誘導などを試みたが、これらについてはまだ条件検討が必要な状況である。全体としては順調に計画通りに進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
マウス個体を使った実験で、BACCSを発現する嗅神経細胞において光によりカルシウムシグナルを誘導することに成功したことから、嗅神経細胞におけるカルシウムシグナルの役割を解析する。嗅神経細胞の匂い応答では、匂い分子と嗅覚受容体の相互作用に引き続きGタンパク質がアデニリルサイクレースを活性化する。それにより生じたcAMPが環状ヌクレオチド依存的チャネルを開きカルシウムイオン等のカチオンが流入し、最終的に活動電位を引き起こす。カルシウムイオンはネガティブフィードバックによる脱感作やカルシウム依存的クロライドチャネルの機能を制御するなど、匂い応答を修飾することが知られているが、まだ不明な点が多い。光により細胞内カルシウムイオン濃度を変化させることで、匂い応答への影響を調べる。匂い応答以外にもカルシウムシグナルは軸索投射にも重要な働きをすることから、細胞の局所において誘導されたカルシウムシグナルの機能を明らかにする。 また、BACCSの活性化、不活性化に関する時間解像度を上げるために、BACCSに変異を導入するなどして、改良を続けていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果をまとめて発表するには時期尚早であったため、論文発表および学会発表を次年度に行うことにした。そのためそれらにかかる経費を持ち越したために次年度使用額が生じた。 次年度は培養細胞とマウス個体を用いた解析を行うため、研究費は当初の計画通り、実験用動物の費用、培養細胞関連の費用、実験試薬の費用に使用する。またこれまでの研究成果を発表するために、論文投稿や学会発表の費用に使用する。
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