研究課題/領域番号 |
24500459
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福井 巌 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90362532)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ニューロン / シナプス / 神経回路 |
研究概要 |
本研究ではニワトリ下丘における音源地図が形成されるメカニズムを解明する事を目標としている。音源の地図の形成には両耳間の音圧差情報や両耳間の時間差情報が重要であると考えられている。本年度の目標である下丘での音源選択性の地図を明らかにする為に、まず微小ガラス電極を用いて単一の細胞の電気活動を細胞外から記録した。様々な両耳間音圧差(ILD)と両耳間時間差(ITD)を含む白色雑音刺激を提示した所、多くの細胞で特定のILDとITDに選択的な電気応答を示した。生理的に生じうるILDとITDの範囲内では、多数の細胞で主にITDにより生じる音源位置に選択的な応答を示したが、ILDにより音源選択性が生じる細胞も存在した。様々な音周波数のILDとITDを含む純音刺激を与えた所、周波数によりITDとILDの応答は異なっていた。これらの事より音周波数依存的なITD情報とILD情報の統合が行われている事が示唆された。上記の研究成果等は主に2012年9月の神経科学会(横浜)及び2012年10月の北米神経科学(ニューオリンズ)に於いて発表を行った。 下位の神経核である層状核において遅延回路の働きによりITD情報が最も興奮する細胞の位置へと情報が変換されることが解っている。その層状核に於いてそのITD情報の変換には層状核の細胞への投射線維の特徴周波数間の相互作用が重要である事が解った。この異なる特徴周波数が相互作用する事で検出できるITD範囲の拡大と音源が正面に有る時の応答選択性の向上が期待できると考えられた。この研究成果は2013年3月の日本生理学会(東京)で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の主目標は音源選択性マップを明らかにする事である。下丘の各部位に於いて、両耳間音圧差(ILD)や両耳間時間差(ITD)を含む白色雑音及び純音に対する応答選択性を単一細胞記録で記録を行った。これらの一連の実験は単一微小電極を用いた。その結果、下丘の部分的な音源選択性の概略は判明した。しかし、下丘全体に於ける音源選択性の地図はまだ不明である。一方で音源地図を調べる過程で音源選択的に応答しない領域が下丘において観察できた。この領域はITDやILDを含む音刺激には特異的な応答を示さず、様々な音周波数の純音刺激に対して特徴的な応答を示した。この事からこれらの細胞は、音源の定位よりも音質の解析に関わっていると考えられた。また、下位の神経核に於いて下丘での音源地図形成に必須なITD情報の抽出に重要な神経回路パターンも発見する事が出来た。 上記をまとめると、①下丘の音源地図に関して部分的な解析は進んでいるが、下丘全域の解明には至っていない。しかしながら、②下丘に関連して、音源地図以外の機能の発見した事、③音源地図形成に重要な時間差の検出に関する知見が深まった事。これらの下丘の音源地図形成に関して新しく得られた知見に対して、詳細な解析を平行して行っているのでこの評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の計画でまだ達成できていない部分を補完しながら、基本的に当初の計画通り進める。まず多チャンネルの電極を用い、音源地図の詳細な解析を進める。その後、下丘に色素を注入及び下位の神経核からの投射線維の可視化を進め、形態学的な解析を進める。また、下位の神経核に薬剤を局所的に投与し下丘での音源地図形成への影響を調べる。 これと同時に前年度の研究で発見できた新しい知見に付いてさらに詳細な解析を行う。①音源地図に関与しない領域の詳細な解析と下丘への入力と下丘からの出力を形態学的に調べる。②層状核に於ける時間差情報検出の詳細な機構を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
基本的に実験計画書に記載の通りに使用する。 【設備】多チャンネル記録を安定して行う為に多チャンネル用の記録装置及び電極を購入する。また、26年度に行う予定であるin vivoパッチクランプ用に信号増幅器を購入する予定である。 【消耗品】研究計画書に書いてある通り、実験動物・飼育費用・実験試薬・手術の消耗品・データ記録用の電子媒体に使用する。 【旅費等】年2回の国内学会と年1回の海外の学会での研究成果の発表を予定している。
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