研究課題/領域番号 |
24500461
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
熊本 栄一 佐賀大学, 医学部, 教授 (60136603)
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研究分担者 |
藤田 亜美 佐賀大学, 医学部, 准教授 (70336139)
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キーワード | オキシトシン / 抑制性シナプス伝達 / オキシトシン受容体 / ホスホリパーゼC / IP3誘起Ca2+放出 |
研究概要 |
視床下部から脊髄後角へ到るオキシトシン作動性の神経経路が鎮痛に働いている証拠があるが、その作用機序はまだ十分に調べられていない。平成25年度では、オキシトシンが膠様質ニューロンの自発性の抑制性シナプス伝達にどのような作用を及ぼすか調べた。実験は6~8週齢の成熟雄性ラットの脊髄横断スライス標本とパッチクランプ法を用いることにより行った。オキシトシンはGABAやグリシンを介する自発性抑制性シナプス後電流の発生頻度を濃度依存性に増加し、それらのEC50 値は、それぞれ、0.024μMと0.038μMであった。これらの作用はオキシトシンの繰り返し投与によっても見られ、Na+チャネル阻害薬テトロドトキシン存在下で消失した。これらのオキシトシン作用は、いずれもオキシトシン受容体作動薬でも見られる一方、オキシトシン受容体阻害薬の存在下で消失した。以上より、オキシトシンは膜を脱分極させ、その結果、活動電位が発生して自発性抑制性シナプス伝達が促進されることがわかった。次に、その脱分極の発生機序を調べた。オキシトシン膜電流の電流-電圧関係は、調べたニューロンの30%でK+の平衡電位近くで逆転したが、残りの細胞では逆転しなかった。オキシトシン膜電流の振幅は、高いK+濃度や低いNa+濃度を持つクレブス液中では小さくなった。また、ホスホリパーゼC阻害薬U-73122やIP3誘起Ca2+放出阻害薬2-アミノエトキシジフェニルボラートはオキシトシン膜電流の振幅を減少させたが、Cキナーゼ阻害薬ケレリスリン、Ca2+誘起Ca2+放出阻害薬ダントロレンおよびジブチリル環状AMPは作用しなかった。以上より、オキシトシン誘起膜脱分極はホスホリパーゼCとIP3誘起Ca2+放出を介したK+やNa+の膜透過性変化により生じることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オキシトシンがGABAやグリシンを介する自発性の抑制性シナプス伝達を促進すること、そして、その促進は、オキシトシンの膜脱分極作用によることを明らかにしたからである。さらに、その脱分極の細胞内機序を調べてホスホリパーゼCやIP3誘起Ca2+放出の関与を示し、K+やNa+の膜透過性変化の可能性を示唆した。これらの研究成果は、2014年、「Synaptic modulation and inward current produced by oxytocin in substantia gelatinosa neurons of adult rat spinal cord slices」というタイトルで、Journal of Neurophysiologyの111卷の991-1007頁に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
ラットから脊髄横断スライス標本を作製し、その膠様質ニューロンへブラインド・ホールセル・パッチクランプ法を適用する。平成26年度では、同じニューロンで、オキシトシンと内因性鎮痛物質アセチルコリンの作用を比較してオキシトシンの生理作用を検討すると共に、オキシトシン作用に生後発達があるかどうか、また、雌雄差があるかどうか、を調べる。現在の所、オキシトシン受容体には1種類、バゾプレッシン受容体には1A、1B、2型の3種類が知られており、オキシトシンはバゾプレッシン受容体に作用することが報告されている。そのためオキシトシン作用とバゾプレッシン作用の間に相互作用があるかどうかについても調べる。 具体的には、(1) 成熟雄性ラットの膠様質ニューロンのシナプス伝達に及ぼすオキシトシン作用と同様な作用が、2~3週齢の幼若雄性ラットでも見られるかどうか、(2) 成熟雄性ラットの膠様質ニューロンのシナプス伝達に及ぼすオキシトシン作用と同様な作用が、成熟雌性ラット(妊娠ラットも含む)でも見られるかどうか、(3) 成熟雄性ラットの膠様質ニューロンのシナプス伝達に及ぼすオキシトシン作用がバゾプレッシン受容体の阻害薬によりどのような影響を受けるか、を調べる。 以上で得られたオキシトシン作用の生後発達と雌雄差の実験結果を、脊髄後角におけるオキシトシン結合部位や視床下部から脊髄後角へのオキシトシン作動性神経経路の生後発達と雌雄差についての既知のデータと比較検討する。バゾプレッシン受容体阻害薬がオキシトシン作用に及ぼす実験結果を、脊髄後角におけるバゾプレッシン結合部位やバゾプレッシン作動性神経経路についての既知のデータと比較検討する。 以上より、オキシトシンの鎮痛作用は生後発達と共にどのように変化するのか、雌雄差があるのかどうか、さらに、バゾプレッシンの働きとの関わりについて知る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には自発性抑制性シナプス伝達に及ぼすオキシトシン作用を調べると共に、オキシトシン誘起膜脱分極作用の細胞内レベル機序を調べた。文献検索を行いながら実験計画を立てると共に実験データの整理や論文作成を行ったために、実験そのものに割ける時間が少なかった。そのため実験試薬の購入金額が少なかったことが、次年度使用額が生じた理由である。 オキシトシンや高価なバゾプレッシン受容体阻害薬などの試薬、妊娠ラットを含む実験動物、国内外の学会における成果発表、論文の掲載および別刷り代金などに使用する計画である。
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