研究課題/領域番号 |
24500462
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
三嶋 竜弥 杏林大学, 医学部, 助教 (40317095)
|
キーワード | シンタキシン1 / 海馬神経細胞 / 開口放出 / シナプス |
研究概要 |
本研究は、SNARE蛋白質として開口放出に関与するシンタキシン1(STX1)のシナプス伝達における生理機能を解明することを目的としている。STX1には二種のアイソフォーム(STX1Aと1B)があるが、STX1Aの欠損では基本的なシナプス伝達機能に変化はみられない。そこでシナプス伝達機能において重要なのはSTX1Bであると仮定し、STX1Bノックアウトマウスのシナプス伝達機能を解析した。 まず、Ca2+依存的なシナプス小胞の誘発性放出に対するSTX1Bの機能をシナプス小胞のターンオーバーに注目して解析した。2つの近接した培養海馬神経細胞から同時にホールセル記録を行い20Hzの高頻度頻回刺激を加え、興奮性・抑制性の誘発性シナプス後電流を観察した。その結果、STX1Bノックアウトマウスでは頻回刺激に対するシナプス応答の減衰が有意に低下していた。一方、即時放出可能なシナプス小胞のプールサイズに有意差は見られなかった。これらのことからSTX1Bがシナプス小胞のリサイクリングや細胞内輸送に関与していることが示唆される。このようなシナプス応答の異常はSTX1Aノックアウトマウスにはみられず、STX1BがCa2+非依存的なシナプス小胞の放出に強く機能している可能性が示された。次にSTX1AとSTX1Bのダブルノックアウトマウスを作成し、シナプス機能の変化を解析することを試みた。その結果、ダブルノックアウトマウスは胎生致死であり、神経細胞は培養開始10日目には99%以上が死滅することが判った。しかし、生き残った神経細胞はCa2+依存性および非依存性のシナプス応答を示した。特にCa2+依存性のシナプス応答は野生型ニューロンのシナプス応答に比べて振幅が小さく非同期的なシナプス小胞の放出が見られた。以上のことから、STX1はCa2+流入に同期したシナプス小胞の放出に深く関わっている事が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は研究の目的である、「STX1Bのシナプス伝達における機能解析」を達成するために当初の計画通り次の二点について研究を進めた。(1)シナプス小胞のターンオーバーに対するSTX1Bの機能解析。(2)STX1AとSTX 1Bのダブルノックアウトマウスの作成およびシナプス機能の解析。 一部を除き必要とするデータを得ることができ、概ね想定通りの結果を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の結果、STX1Bがシナプス小胞の放出過程だけでなく小胞のターンオーバーにも関与していることが示唆された。開口放出によって形質膜に融合した小胞がエンドサイトーシスされて再使用されるまでには複数の過程を経るため、今後の研究ではSTX1Bがどこに関与するのかを詳細に解析する。電気生理学的手法を用いてシナプス小胞のプールサイズを測定するほかFM-dyeを用いたライブイメージング手法も用いる予定であり、実験系の確立にある程度(数ヶ月程度)の時間が掛かるものと考えられる。 また、STX1Bの欠損がCa2+非依存的なシナプス小胞の自発性放出と、Ca2+依存的なシナプス小胞の誘発性放出に対して異なる作用を示したことから、その機序の解明を試みる。培養海馬神経のシナプス活動を薬理的に阻害するとCa2+非依存的・Ca2+依存的なシナプス小胞の放出量が可塑的に変化する。この可塑性はグリア細胞やシナプス後細胞から放出される神経成長因子や接着因子が関与し、スパインだけでなくシナプス前終末の開口放出関連蛋白質の発現量や蛋白間相互作用の変化を伴う。この現象を利用し、Ca2+非依存的・Ca2+依存的なシナプス小胞の放出に対するSTX1Bの機能的特徴を明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度は予定していた実験が順調に進んだために実験動物や試薬の購入量が少なくすみ、次年次に使用する研究費が生じた。 次年度以降は薬理的な機能阻害実験を中心に行う、そのための試薬や抗体、培養器具の購入に使用する予定である。
|