本研究の目的は、生体哺乳類網膜の視覚情報処理において異なる機能を示す12種類の網膜神経節細胞のシナプス統合過程の違いを知るため、樹状突起上の抑制性シナプスの空間的な分布の特徴を明らかにし、視覚情報処理機能との関係を調べることである。そのために、申請者の開発した生体哺乳類の網膜組織培養法、および、遺伝子銃による遺伝子導入を行った。 平成25年度までに、霊長類(マーモセット)網膜に、本手法を適用し、成功させ、霊長類網膜でも、他の哺乳類に見られるような多様性があることを明確にした。本年度は、その成果を総説記事としてまとめた。 また、本年度は、げっ歯類網膜における生理学的反応、とくに、青や緑といった色に反応する網膜神経節細胞の神経回路基盤を明らかにすることを目的とし、遺伝子導入によって形態学的な解析を行ったのち、パッチクランプ法によって電気生理学的に色に反応する網膜神経節細胞を同定し、解析を行った。緑に対して反応する網膜神経節細胞に比して、青色に対する網膜神経性細胞の反応は、これまで知られていたものと違う層でのシナプス結合を有することが明らかとなった。 こうした一連の結果は、網膜神経節細胞は、げっ歯類や霊長類など、どの種の哺乳類であっても多様性をもち、複雑な神経回路基盤を持っていることを強く示唆している。生理学的な反応を生み出す基盤として、興奮性入力だけでなく、抑制性入力の分布が、より重要であることがわかった。
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