研究課題/領域番号 |
24500468
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
三浦 正巳 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (40291091)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経生理 / 大脳基底核 / アセチルコリン |
研究概要 |
大脳基底核の入力核である線条体では、ドーパミンとともに、内在性コリン作動性介在ニューロンから放出されるアセチルコリンが重要な機能調節因子である。また、線条体にはストリオソームとマトリックスと呼ばれるコンパートメント構造が存在し、コリン作動性ニューロンはストリオソームの周囲に多く分布する。興味深いことに、視床から線条体への入力は、ストリオソーム/マトリックスでシナプスの形態が異なる(Fujiyama 2006)。さらに、コリン作動性ニューロンも視床入力を受けることが知られている。このため、視床入力の機能を理解するためには、コリン作動性ニューロンと線条体のコンパートメント構造の関係に着目した研究が有効と考える。 これまでの研究で、ストリオソームではμオピオイド受容体刺激によってGABA性IPSCが抑制されることを示した。これはストリオソームの投射ニューロンがGABA作動性であり、同時にμオピオイド受容体を持つためと考えられる。オピオイドによるIPSCの抑制はcAMP依存性のシグナル伝達経路を使っている。ところが、ムスカリニック受容体阻害薬アトロピンによりμオピオイド受容体の作用が増強することから、アセチルコリンとの相互作用が示唆された。このことをさらに詳しく調べると、内在性のアセチルコリンが、M1ムスカリニック受容体サブタイプからPKCのシグナル経路を介してオピオイドと拮抗的にGABA性IPSCを調節していることを示した。 コリン作動性ニューロンは視床入力を受けるので、その結果、アセチルコリンも増減すると考えられる。そうしたアセチルコリンの作用の一つがコンパートメント特異的であり、オピオイドと拮抗的に線条体局所神経回路の興奮性を調節することは、視床入力の機能を考える上でも興味深い結果といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで手技的に困難だった線条体コンパートメントからの記録を、実験手法を工夫することで、電気生理学的に調べることを可能とした。具体的には、線条体ストリオソームをEGFPによって識別出来るマウス(Matsushita 2002)から作製した線条体スライスを用いて、蛍光顕微鏡下にストリオソームとマトリックスを識別する。その後、赤外線微分干渉(IR-DIC)に切り替えて線条体ニューロン探してホールセル電気記録を行った。電気記録後に、電極内に入れたbiocytin、およびコリン作動性ニューロンやストリオソームのマーカーであるChATとμオピオイド受容体を染色して記録したニューロンの位置とセルタイプを確認できる。こうした方法で、ストリオソームでのオピオイドとアセチルコリンの拮抗的作用をより詳細に調べることが可能となった。その結果、オピオイドによるIPSCの抑制はadenylyl cyclase 阻害薬やPKA阻害薬で止まることを確認でき、cAMP依存性のシグナル伝達経路の活性化が必要であることが分かった。内在性アセチルコリンとオピオイドの拮抗的相互作用の研究につながり、さらに研究を発展させているところである。また、遺伝子改変動物を用いてセルタイプを識別する研究も順調に進展しており、常同行動、薬物依存に伴う異常なシナプス可塑性を調べている。
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今後の研究の推進方策 |
大脳基底核は、大脳皮質と視床と連携して運動機能や手続き記憶や強化学習を担っている。ほぼ全ての大脳皮質領野から受けることが、こうした多彩な機能の基盤といえる。一方、視床から大脳基底核への入力は「注意」や「決断と行動の修正」といった独特の機能を持つと考えられている。この視床線条体入力は、線条体のコリン作動性介在ニューロンへも入力している。視床入力によってコリン作動性ニューロンからのアセチルコリンも増減すると考えられ、その結果として線条体の活動を変えているだろう。また、線条体は大脳基底核で最も大きな核であり、おおまかな機能局在がある。さらにストリオソーム、マトリックスといった、発生段階も入出力も異なるコンパートメントがある。そこで、記録部位と細胞タイプを識別しながら研究を進めることが生理機能の理解に重要でと考えている。 これまでの研究で、記録部位と細胞タイプを識別しながら電気記録を行えるようになった。一方、視床入力を直接刺激する方法については、刺激効率を上げることが難しく、データの蓄積がまだ少ない。視床入力と大脳皮質入力を選択的に刺激するためには、視床投射を残すようにスライスを作製する(Smeal 2007)。これにより皮質と視床を叩きわけることができるのだが、今後、複数の箇所を刺激したり、刺激位置を変えたりできる刺激電極を新たに制作して、実験の能率を上げる計画である。 これによって、生理的、病的状態での視床入力について調べていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画を着実に進めるための主要な物品は揃ってきたので、次年度では50万円を超える機器を導入する予定はない。主に、物品費(動物関連30万円、消耗品90万円)とし、人件費・その他25万円として計画している。その中で、比較的大きな費用となるのはオーダーメイドの刺激電極で、使用個数によるが、10~40万円を計画している。 「次年度使用額(B-A)」が生じているが、その理由としては、記録方法を効率的なものに変えるために使用機器を変更したことである。その結果、物品費(刺激電極等の消耗品費)は、研究計画を通して増えることになったので、次年度に使用することが適当と考える。
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