研究課題/領域番号 |
24500478
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
日浦 幹夫 法政大学, スポーツ健康学部, 教授 (10327918)
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研究分担者 |
成相 直 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 講師 (00228090)
石井 賢二 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (10231135)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 局所脳血流量 / 陽電子放出断層撮像法 / 運動負荷 |
研究概要 |
本研究は定常運動負荷中に陽電子放出断層撮像法(positron emission tomography ; PET)によって局所脳血流量(regional cerebral blood flow ; rCBF)を解析し、ダイナミックな脳循環調節機構を解明することを目的として遂行された。これまでに準備してきた仰臥位自転車エルゴメーター運動中のPET計測が平成24年3月までに終了し、平成24年度は得られたデータの解析を行い、運動と関連する脳機能分担を明らかにした。 本研究の研究計画および倫理申請は平成23年度以前に東京都健康長寿医療センターにて承認されており、プロトコルに沿って定常運動負荷は酸素摂取量キネティクスの所見に基づき低~中強度の運動強度において実施された。PET計測は1)安静時、二酸化炭素吸入負荷時、2)安静時、運動負荷初期相(開始3~5分)、運動負荷持続相(開始13~15分)において実施され、それぞれの生理的負荷状態に応じたrCBF機能画像解析データが得られた。得られたrCBFデータの特徴的な所見は以下の2点である。 1)本研究にて実施した低~中強度の定常運動負荷によって、運動負荷初期相での全脳血流量は安静時と比較して平均27.9%増加し、運動負荷持続相では安静時と同等な値に戻っていた。 2)運動負荷初期相と持続相に共通して下肢に相当する第一次運動および体性感覚野、小脳虫部、における有意なrCBF増加が認められたが、初期相ではこれらに加えて補足運動野、島皮質、小脳半球での領域にも有意なrCBF増加を認め、なお且つ増加の程度は持続相と比較して大きかった。 運動負荷中のPET計測でのrCBF定量値の報告はこれまでに無く、成果報告の準備を進めている。今後は運動負荷強度、時間等の因子を変化させた介入を行い、脳循環調節機構を解明することを目的として研究を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中等度以下の運動強度の定常負荷運動時のrCBF機能画像を得るための実験系の構築については、PET計測および動脈血中二酸化炭素分圧(PaCO2)以外の生理学的指標の計測を含め順調に施行された。 運動負荷時のrCBF解析に基づいて各脳領域の脳血管二酸化炭素反応性を解明する目的で、平成23年度に二酸化炭素吸入時のPET計測を実施し、平成24年度には計測データの解析を進めた。この結果、これまでに実施した二酸化炭素吸入の方法では動脈血中二酸化炭素分圧(PaCO2)がPET計測の前後で不安定であることが判明した。このため、各脳領域の脳血管二酸化炭素反応性の検討については、不十分な結果しか得られていない。したがって、二酸化炭素吸入に関する実験手法を再考し計測実験を追加する必要がある。 脳血管自動調節能の解析については、中等度以下の運動強度の定常負荷運動では血圧の変動がほとんど認められないため、実施されていない。今後、運動強度の増加、運動様式の変更、あるいはValsalva 負荷(息こらえ)などの新たな介入を加えることで、この解析を進める予定である。 平成24年度は、平成23年度に実施した単一の運動強度の実験系のデータ解析を行った。平成24年度中に運動強度および継続時間を変化させた場合の運動負荷時PET計測を実施出来なかったため、平成25年度内に新たに予定している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度、26年度に運動負荷時PET計測を追加し、これまでの結果と併せて検討を重ねる。今後は運動強度、継続時間を変化させた実験を予定するが、強度を上げた場合には頭部の動きが生じPET計測が実施できないことが予想される。当初、定常運動負荷の開始時および運動中の血圧変化を予想していたが、これまでの結果では血圧変動が乏しかった。前述のように運動強度を増加させた場合の再考以外に、血圧変動については運動後の変動についても検討する予定である。具体的には、中等度以下の定常運動負荷には降圧効果があることが知られているため、血圧降下が得られている時のrCBF変化を計測する。この場合は、運動中にはPET計測を行わず、運動後の頭部動揺がない状態での計測となるため、運動負荷強度、継続時間を任意に変化させることが可能である。 経頭蓋超音波ドプラ法(transcranial Doppler ultrasonography ; TCD)や近赤外分光法(near-infrared spectroscopy ; NIRS)を用いた計測を活用して脳血流量や酸素代謝を部分的な領域に限定して測定あるいは推定することが可能であるが、運動負荷時のPET計測により各脳領域のrCBFの変化を正確に把握することが可能である。今後は、これまでに行った計測と同様な運動負荷時のTCDおよびNIRS計測を実施し得られたデータとrCBFの比較検討を予定している。 平成25年度、26年度は運動遂行指令や運動時に自覚するきつさなどの因子に関連する各脳領域のrCBF解析を加える。運動中、運動前後にvisual analogue scaleや気分尺度によって、きつさや気分状態を評価し、rCBFとの関係を解析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
PET計測を実施する場合の検査薬剤、消耗品ほかの費用が発生する。また、実験計測実施時の保険加入費用が必要である。PET計測および予備実験に参加する被験者への謝礼が必須となる。 血圧変動と心拍出量のモニタリングを実施する目的で、非侵襲的血行モニタリング装置の購入を検討中である(Nexfin; BMEYE, Netherland)。本機器によりPET計測中の運動負荷時には動脈採血用カテーテルを介した動脈圧波形、PET計測を伴わない運動負荷時(予備実験を含む)には経皮酸素飽和度モニターなどの波形から、心拍出量、血圧などのモニタリングが正確に行えることが予想される。 成果報告として論文投稿を準備中であり、投稿雑誌の規定に準じた費用、英文編集、別刷り等の費用が必要となる。成果報告として平成25年5月に学会発表(XXVIth International Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function(上海・中国))を予定しており、その他にも国内外での学会発表に伴う参加費、旅費等の発生が見込まれる。
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