研究課題/領域番号 |
24500481
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 暢哉 関西学院大学, 文学部, 准教授 (70465269)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | エピソード記憶 / 脳梁膨大後皮質 / 脳損傷 / ニューロン活動 |
研究概要 |
いつ,どこで,なにが起こったかという出来事の記憶をエピソード記憶という.本研究は,エピソード記憶を構成する要素情報が統合される脳領域として脳梁膨大後皮質に着目し,その統合の脳内メカニズムを神経細胞レベルで明らかにすることを目的としている. 平成24年度は,脳梁膨大後皮質とエピソード記憶の関連性を検証した.まずは,ラットを対象としたエピソード記憶課題の開発およびその洗練に取り組んだ.環境内の経路を任意に変更可能な格子迷路を新たに考案し,8匹のラットを対象として迷路内の経路を目的地までたどるナビゲーション課題を学習させた.課題の学習後,空間的記憶を検討するいくつかのテストを行った結果,ラットが迷路内の経路配置を認知地図として記憶できることを示す行動データを得ることができた.その後,一部のラットについて脳梁膨大後皮質の損傷処置を施し,現在は脳損傷が課題遂行に与える影響を検討するため,行動データを収集中である. これに加えて,過去に行った行動について予期せぬ形でテストする偶発位置記憶テストを考案し,4匹のラットを対象にそのテストを実施した.その結果,ラットが過去に自身が行った行動の位置を遡って思い出すことを示唆する結果を得た.また,一部のラットについて脳梁膨大後皮質を損傷し,同様のテストを行った結果,過去の行動を思い出すことを示唆する行動が減弱する傾向が観察された.このことは,脳梁膨大後皮質がエピソード記憶の一特性である心的時間操作に関与することを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画では,ラットに放射状迷路を用いた条件付き場所見本合わせ課題を学習させ,脳梁膨大後皮質のニューロン活動を記録・解析する予定であった.8匹のラットを対象に条件付き場所見本合わせ課題の訓練を行ったが,実験手続き上の不手際により,予定していた課題パフォーマンスを学習させることができなかった.しかし,新たに考案した格子迷路では特に問題なく課題を学習させることができ,今後も継続してデータを得ることができると考えている.ニューロン活動については,現在は記録用電極の制作中であり,計画よりも進行が遅れている.来年度はこの点を中心的課題と位置づけ,記録実験を開始できるように準備を整える予定である. 一方で,当初の計画以上の成果も得られつつある.研究計画では,本研究の将来的な課題として,エピソード記憶の別側面である心的時間操作について検討することを挙げていた.今年度において,この心的時間操作の側面に関与すると考えられる偶発位置記憶テストを開発することができ,さらに実際にテストを行うことができたことは,計画以上の成果といえる.偶発位置記憶テストの結果,ラットが過去の自身の行動を遡って思い出していることを示唆する結果を得た.さらに一部ではあるが,脳梁膨大後皮質の損傷処置を行い,テストに与える影響を検討したところ,エピソード記憶に関わる行動が阻害されることを示唆する結果を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,今年度得られた成果を補強するため,継続して実験を行い追加データを収集する.並行して,これらの成果を学会発表や論文として発表していく予定である.また,前年度に研究計画通りに進行させることのできなかった条件付き場所見本合わせ課題について訓練の手続きを洗練し,ラットに課題を学習させ,変更した手続きの効果を行動学的に検討する.その後に,脳梁膨大後皮質の損傷処置を行い,損傷が課題パフォーマンスに与える影響を検討する予定である.並行して,ニューロン活動記録のための電極制作および装置のセットアップを進め,課題遂行時のニューロン活動データを収集する予定である.特にニューロン活動の記録については当初の研究計画よりも進行が遅れているため,当該年度において中心課題として研究を推進させる.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度はニューロン活動記録のための電極の材料費および記録に関わる装置を購入予定である.また,ラットに学習させる課題に使用する迷路作成のための材料費,脳損傷やニューロン活動記録のための電極埋め込み手術に関わる器具や薬品などの消耗品にも支出予定である.以上に加えて,研究成果を学会で発表するための旅費として研究費を使用する予定である.
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