研究課題/領域番号 |
24500492
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
松崎 貴 島根大学, 生物資源科学部, 教授 (90241249)
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研究分担者 |
猪原 節之介 島根大学, 生物資源科学部, 教授 (90101295)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ハイイロジネズミオポッサム / 新生仔 / バリア機能 / 皮膚創傷治 / 免疫組織化学 / cytokeratin / 表皮細胞 |
研究概要 |
ハイイロジネズミオポッサム新生仔のバリア機能発達過程を調べるために、経皮水分蒸散量を計測した。しかしプローブの大きさや密着度が体躯の小さいオポッサム新生仔に適合しなかったことから、プローブを改良して次年度の本実験に備えることとした。免疫組織化学では、ラット皮膚組織と交差するCK14抗体(Chemicon MAB3232)およびCK10抗体(Lab Vision MS-157-P0)が交差することが分かったが、他の抗体では交差しないものが多かった。生後1日目新生仔皮膚に切創を施した後の創閉鎖過程を調べたところ,傷つけ12時間後までは表皮の基底層1層でのみ発現したCK14が,24時間の創部では表皮全有核層で発現していた。CK14の発現領域は創閉鎖完了後の傷つけ48時間後でも観察され、72時間で正常な発現パターンへと回復した。オポッサムの生後1日目はラットの胎児期に相当すると考えられてきたが、切創の治癒に関しては生後1日目新生児ラットの創傷治癒過程と類似しており、予想より進んだ発達段階にあることがわかった。 また、表皮の細胞間隙構造の発達具合を三次元観察するため、成体皮膚サンプルをScale 2A 溶液に浸漬して透明化できるか条件を変えて検討したが、浸透時間を2ヶ月まで延長しても、レーザー共焦点顕微鏡で観察するのに十分な透明度は得られなかった。さらに、オポッサム皮膚を解離して得られた解離表皮細胞をKGM-Gold培地で培養し、得られた細胞に遺伝子導入する実験では、解離時に表皮細胞のダメージが大きく、培養下での増殖がほとんどみられなかった。このため、Greenのフィーダー法など古典的な培養法も含め、次年度以降培養法を再検討することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ハイイロジネズミオポッサム新生仔のバリア機能発達過程の解明を目指して、動物飼育環境調節装置(飼育装置)の導入を予定していたが、飼育施設および飼育装置の湿度調節機能の不具合や振動が見つかったことから、装置の搬入・稼働が大幅に遅れた。このため、安定した湿度環境が重視される新生仔でのバリア機能の本実験は次年度に延期し、予備実験と皮膚創傷治癒実験を行った。また、表皮細胞の培養が予想外に難しく、解離条件等を検討したがあまり改善しなかった。装置の不具合で、新生仔が得にくかったことも影響し、十分な量の実験ができなかったこともあり、本年度は当初の予測よりやや遅れた結果であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はパイロット実験として、GFP 遺伝子を導入した表皮細胞とTdTomato 遺伝子を導入した表皮細胞を作成する計画であったが、遺伝子導入条件を検討するための表皮細胞の培養法がまだ確立できていないこと、Scale 2Aを用いた透明化の条件が決まっていないことから、前半にこれらの追加実験を行う。また、飼育装置での産仔をすすめ、新生仔バリア機能解明に必要な,免疫組織科学的解析手法を確立する。培養法としてはGreenのフィーダー法等も検討してみる。 後半は、培養細胞への遺伝子度導入実験を行うとともに、レシピエントのヌードマウスの皮膚に約1cm 四方の欠損創を作成し、作成した遺伝子導入細胞を適当な割合で野生型表皮細胞および真皮細胞と混合して創に滴下し、蛍光タンパク質標識細胞が散在あるいはコロニーとして含まれるキメラ皮膚を再生させる。キメラ皮膚内でのGFP/TdTomato 発現細胞の立体配置を観察するため、固定した皮膚サンプルをScale 2A 溶液に浸漬して透明化したのち皮膚をヌードマウスに移植して生着後に傷つけする実験を行う。その後、定期的にサンプリングしオポッサムの皮膚創傷治癒過程をラットものと比較する。また、創傷治癒過程の細胞動態の解明には、透過型電子顕微鏡による微細構造の比較も行う。 さらに、実験が順調に進み時間的余裕があれば、当初の予定どおり、遺伝子導入細胞を含む皮膚の再構築と標識細胞の立体配置観察法の確立を目指す。妊娠9.5~11.5 日の母親を麻酔して開腹し、レポーター蛍光タンパク質遺伝子を組み込んだウイルスベクターとトランスフェクション試薬の混合物をキャピラリーで子宮の羊水内に注入し、将来表皮細胞に分化する胎仔表面の外胚葉細胞に感染させる実験を行い、新生仔の皮膚を経時的にサンプリングし、レポーター蛍光タンパク質を発現する細胞の立体配置を観察・記録する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は35,096円の未使用額を計上したが、これは購入予定の製品が海外発注となり、納品が年度末に間に合わなかったためである。次年度はこの残額を含め、全てを消耗品費として使用する。主な購入品は、細胞培養液、培養関連試薬、抗体、免疫組織化学関連試薬、レポーター遺伝子、ヌードマウス購入費用等である。
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