研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は、60年もの長い潜伏期間の後、成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia: ATL)のような腫瘍性疾患およびHTLV-1関連脊髄症(HAM/TSP)、ブドウ膜炎といった炎症性疾患を引き起こす。このウイルスがコードするtax遺伝子がこれら疾患の発症に重要な役割を果たしていると考えられている。我々は、tax遺伝子をT細胞特異的に発症するTaxトランスジェニックマウスを作製し、解析をすすめてきた。Tax-Tgマウスは、主にATLとよく似たT細胞白血病とHAM/TSPの発症病態に類似した関節炎を引き起こす。一方、このマウスは若齢マウスから老齢マウスまで、ある一定の割合で皮膚炎をも引き起こす。前年度の解析により若齢マウスの皮膚炎は、細菌起因性のものであり、細菌排除能の低下によるものであることが強く示唆された。一方、老齢マウスの皮膚炎は、体表の30%以上の皮膚が脱落する火傷のような症状を示した。このマウスを詳細に検索したところ、表皮を壊死主体とするヒトの中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis; TEN)と類似していることがわかった。また、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome; SSSS)も同様の所見を示し、マウスでも観察されることから鑑別をおこなった。表皮からのPCRによるブドウ球菌特異的シーケンス検出は全例陰性であり、病理所見では、表皮全層の壊死が観察され、SSSS特有の角質層のみの壊死ではなかった。以上のことからこの皮膚炎はTEN類似と推察した。また、このTEN類似マウスの若齢期での皮膚炎の有無との関係はみられなかった。現在、若齢期の皮膚炎の発症とT細胞白血病発症の関連について追跡している。
2: おおむね順調に進展している
若齢マウスでは、明らかに細菌の排除能の低下が観察されるが、FACS解析によって脾臓におけるT細胞(CD4およびCD8)、B細胞の比率には変化がないことが明らかとなった。また、老齢マウスにおける皮膚炎は表皮全層の壊死、表皮-真皮間の細胞のアポトーシス、表皮におけるiNOSの発現が明らかとなった。また、FACS解析では、TおよびB細胞以外の細胞の増殖が確認された。このことは、若齢マウスにおける皮膚炎は、免疫不全状態における細菌排除能の低下、老齢マウスにおける皮膚炎はブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome; SSSS)と明確に区別できるTEN様であることが明らかとなった。
6か月齢未満のTax-Tgマウスにみられる細菌の排除能の低下原因についてさらに解析をすすめる。具体的には各免疫細胞の機能の解析を行う。また、この免疫低下をもたらすマウス群と白血病発症の関連性について継続的に観察を行う。現在まで、細菌排除能の低下したマウスと正常なマウスでの遺伝子解析の差はみられていないので、老齢マウス群を追加し解析する。
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