ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)pX領域がコードするtax遺伝子を導入したTaxトランスジェニック(Tg)マウスは、ヒトにおけるHTLV-1感染症と良く似た病態を引き起こす。主な疾患は、HTLV-1が引き起こす成人T細胞白血病(Adult T-cell leukemia: ATL)と良く似たT細胞白血病である。我々は、この白血病を発症したマウスと同腹の未発症マウスの網羅的遺伝子解析によって、チロシンキナーゼの共通基質であるDokファミリー分子の発現低下を認めた。Dokファミリー分子は、現在Dok-1~7まで同定されており、そのうちDok-1、Dok-2およびDok-3は、血球系細胞に主に発現し、肺がん、組織球肉腫のマウスにおいて明らかな低下が観察され、がん抑制遺伝子であることが示唆されている。Tax-Tgマウスにおいて白血病を発症したマウスはDok-1、Dok-2およびDok-3すべての低下が観察された。また、まれに観察されるHTLV-1関連脊髄症/熱帯痙性麻痺(HAM/TSP)様疾患は、組織球肉腫の脊髄への移行であることを報告したが、このHAM/TSP様マウスにおいてもDok-1、Dok-2およびDok-3すべての低下が観察された。一方、これら疾患を発症していない未発症マウスにおいてはDok-2のみの発現低下が認められた。このことから、Tax発現によってDok-2の発現がまず抑制され、がん化(白血病化)の移行に伴い、Dok-1およびDok-3が低下することが考えられる。また、これら分子は免疫系に関与することも知られているため免疫不全状態にも関与している可能性が示唆される。
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