今年度は肺パスツレラの病原因子の宿主応答を明らかにするため、肺パスツレラ組換えIbpA(rIbpA)をマウスマクロファージ細胞、フィブロブラスト細胞などに添加したときの挙動を観察した。両細胞ともrIbpAを添加すると1時間以内に細胞形態が大きく変化し、免疫沈降-ウエスタンブロット解析の結果、細胞内に侵入したrIbpAはリン酸化されることがわかった。さらにこのときにSrcファミリーキナーゼの選択的阻害剤であるPP2を予め添加することでrIbpAのリン酸化と細胞形態の変化が抑えられることが観察された。このことから、rIbpAのリン酸化にはSrcファミリーキナーゼが関与し、宿主の細胞形態に関わるシグナル伝達経路に影響を及ぼしていることが推測された。 さらに今年度は病原因子の特定を進めるため、肺パスツレラの代表株の一つであるATCC 12555生物型Heylのドラフトゲノム解析を行った。遺伝子配列については、GenBankにBBXJ01000001からBBXJ01000002の2contigとして登録した。生物型Heylのドラフトゲノム解析で明らかになった病原因子は、Jawetz型と同じくRTX (repeat in toxin) toxinや数種の溶血素と血球凝集素をコードする遺伝子群が同定された。その中でもYadA (Yersinia adhesin A)ドメインを含む高分子タンパク質をコードする遺伝子が両生物型に共通して4種類も存在することが新たにわかった。この遺伝子配列をもとに、野生株の分布状況を調べたところ、マウス由来株の6割以上に存在し、ラット由来株にはほとんど存在しないことがわかった。さらにマウスコラーゲンやフィブロブラストへの接着能を比較したところ、YadA陽性株は高い接着能を示した。これらのことからYadAは肺パスツレラの接着を担っている病原因子と結論した。
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