研究課題/領域番号 |
24500498
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
袴田 陽二 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (00218380)
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研究分担者 |
藤澤 正彦 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (10508873)
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 神経再生 / 幹細胞 / スナネズミ / 脳虚血 / in vivoイメージングシステム / トランスジェニック |
研究概要 |
昨年度に引き続きGFP/Lucトランスジェニック(Tg)ラットおよび正常スナネズミの骨髄から樹立した間葉系幹細胞(MSC)の特性解析を実施した。本年度は、両動物由来のMSCの多能性を確認するために、分化誘導実験を行い、何れのMSCも脂肪細胞に分化する能力を有することを明らかにした。しかし、スナネズミのMSCはTgラットに比し,分化能が低いことが判明した。Tgラット由来MSCの移植後のレシピエント内の動態をin vivoイメージングシステム(IVIS)を用いた追跡実験を行った。Tgラット細胞(肝細胞、骨髄細胞、MSC)を利用したラット間の同種異系細胞移植では、移植細胞は移植後1週間以上追跡可能であるのに対し、スナネズミへの異種移植では1週間以内に検出限界以下になり、何らかの免疫抑制が必要であることが判明した。今回は、免疫抑制剤シクロスポリンと放射線照射の併用に対する移植細胞の動態を検討し、その延長を確認した。今年度は新たに正常スナネズミMSCの移植後のレシピエント内の動態を追跡するシステムの構築を目指して、蛍光色素細胞ラベルキットを用いてMSCを標識し、移植後の細胞追跡システムの構築を目指した。 脳虚血後に生じる脳梗塞の治療実験として、一過性脳虚血後の脳梗塞に対するMSCの治療効果を検討し、MSC投与が虚血後に生じる神経細胞死を抑制することを明らかにした。また、別の実験として、一過性脳虚血後の脳梗塞に対する浸透圧剤10%マンニトール投与の治療効果を検討し、マンニトールが脳梗塞のサイズを縮小することを明らかにした。マンニトールは脳虚血後に生じるアストロサイトの膨張による毛細血管の圧迫を抑制し、2次的に生じる脳虚血障害を抑制することで脳梗塞の発生を抑制する。即ち、今回の結果はMSCを含む幹細胞を用いた神経再生は神経そのものだけではなく、神経膠細胞への作用にも注目する必要であることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトの目的は、神経再生研究用のモデルとして移植幹細胞を非侵襲的に追跡可能なバイオイメージングシステムの構築である。昨年度は、ラットの虚血モデル用いたシステムの構築を目指したが、脳虚血が再現性よく作成できるラットモデルは現在のところ世界的にみても存在しない。過去には中大脳動脈閉塞モデルや動脈にカテーテルを挿入し、脳底動脈を閉塞するモデルがあるが、虚血負荷の再現性に難がある。治療効果を評価する上で、虚血障害の安定性は重要である。我々は体サイズの大きなラットの利便性に注目してラットの脳虚血モデルでのイメージングシステムの構築を目指したが、虚血モデルの作成に難があること、体サイズが大きい故に、移植時に大量の幹細胞が必要となること。加えて、ヒトのMSCを用いた脳虚血障害に対する治療に関する動物実験では,スナネズミの虚血モデルが多用されている点を考慮して、本年度はラットに加え、スナネズミを用いたイメージングシステムの構築を平行して目指すこととした。スナネズミは他の齧歯類とは異なる脳底動脈走行を有し、総頸動脈を閉塞することで、簡単に再現性のよく同側大脳半球に脳虚血を誘導することができる。また、我々はこれまでスナネズミの脳虚血研究に多数の実績を有するので、虚血モデルの変更は極めて容易に対応出来る。今年度、Tgラットならびにスナネズミ由来のMSCは多分化能を有し、スナネズミのMSC移植は一過性脳虚血後の脳梗塞を縮小することを明らかにした。しかし、TgラットMSCのスナネズミへの移植は、ヒトMSC移植時と同様の免疫抑制プロトコールに従っても、早期に消失することが明らかになった。従来、MSCの抗原性は低いとされているが、今後、詳細な検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
幹細胞による神経再生のメカニズムは未だに不明な点が多い。従って、今後の研究は幹細胞の特性解析と治療効果の解明を同時並行で進めていく。幹細胞の特性解析として幹細胞に特異的に発現するマーカーの同定と、分化誘導後の多分化能を調べる。Tgラット由来の幹細胞は細胞マーカーを指標にして移植後の動態を追跡出来るが、スナネズミは指標となる細胞マーカーを持たないので、新たに蛍光色素を利用した細胞ラベルの有用性を検討し、イメージングシステムへの利用の可否を評価する。今回実験に使用したスナネズミは、その遺伝情報が皆無で、今後はラットの情報をもとに、遺伝子の配列を決定する。治療効果は、GFP/LucTgラットおよびスナネズミ由来の幹細胞を虚血負荷したラットおよびスナネズミに移植し、その定着をGFPおよびLucの発現を経時的に追跡し、移植細胞の運命をバイオイメージングシステムを利用して明らかにする。また、幹細胞移植の治療効果を各種行動解析機器を利用して評価する。以上、神経再生研究用のモデルとして移植幹細胞を非侵襲的に追跡可能なバイオイメージングシステムの構築を目指して、多面的に検討する。 現在のところ、ヒト臨床では、血栓による急性脳梗塞に対する治療法として血栓溶解法が注目されている。これまでに我々はスナネズミの脳虚血モデルを用いて、一旦血流が回復してもその後のアストロサイトの膨化により、二次的に脳虚血が発生し、脳梗塞が重篤化することを明らかにした。二次的な脳虚血の予防法として、浸透圧剤マンニトール投与が神経膠細胞の一つであるアストロサイトの膨化を抑制し,脳梗塞の縮小に有効であることを証明した。我々は、幹細胞を利用した脳梗塞の治療を目指しているが、幹細胞の治療のメカニズムはまだ不明な点が多い。そのメカニズムの解明には神経膠細胞にも注目して必要があると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に引き続き、GFP/LucTgラットおよびスナネズミからの幹細胞の樹立ならびに多分化能を検討した。その間の動物の飼育および培養系、イメージングシステムに掛かる消耗品の購入費用に予算をあてた。さらに、本年度は虚血後のMSC移植の有効性を病理組織学的に評価するために多数の組織標本を作成した。来年度はさらなる組織標本の作成ならびに行動評価をするための器材の整備が必要となるため、予算の一部を繰り越すこととした。 最終年度は虚血動物の作製ならびに幹細胞の特性解析用としてFACSと免疫染色用にモノクローナル抗体の購入等により多額の支出が見込まれる。加えて、幹細胞の治療の有効性を動物行動学的に評価するために、その器材の整備を行う。さらに、研究成果の公表(印刷代)および学会発表のための旅費についても執行する予定である。
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