研究課題/領域番号 |
24500502
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
松岡 邦枝 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主席研究員 (40291158)
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研究分担者 |
吉川 欣亮 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, プロジェクトリーダー (20280787)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 外有毛細胞 / ジフテリア毒素 / トランスジェニックマウス / 疾患モデル / 難聴 |
研究概要 |
聴覚は感覚情報として非常に重要であり、聴覚機能の損傷は著しいQOLの低下をもたらす。聴覚機能の中核を担う内耳外有毛細胞の機能および分化機構を解明し、聴覚障害の治療に役立てることを目的として、ジフテリア毒素(DT)を投与することによりOHCを誘導的に破壊することのできるマウス(OHC-TRECKマウス)を樹立した。 マウスゲノムDNA塩基配列データベースの情報を基に特異プライマーを設計し、OHC特異的モータータンパク質であるPrestinのプロモーター領域をマウスゲノムDNAを鋳型としたPCRによって合成・単離・クローニングした。PrestinプロモーターにDTレセプター(hDTR;ヒトHB-EGF)の機能を保持しながらEGF活性を低下するI117V/L148V変異を有するhDTR cDNAを連結してトランスジェニック(Tg)マウス作出用導入遺伝子を構築し、定法に従ってC57BL/6マウス系統の受精卵雄性前核にマイクロインジェクションしてトランスジェネシスを行い、OHC-TRECKマウスを作出した。 5週齢のOHC-TRECKマウスにDTを腹腔内投与して5日後に聴性脳幹反応(ABR)により4~32 kHzの聴力測定を行った結果、全ての音域において#38系統は聴覚閾値>70 dBの高度難聴を、#53系統は聴覚閾値>100 dB完全難聴を示した。これら2系統のOHC-TRECKマウスから内耳蝸牛を摘出し免疫組織学的解析をしたところ、両系統とも内有毛細胞は正常な形態を維持しており、外有毛細胞のみが特異的に欠失していた。これらは期待通りの結果であり、開発したOHC-TRECKマウスは外有毛細胞の機能を解明するためのツールとして極めて有用であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最初のステップは、内耳有毛細胞特異的にhDTRを発現するトランスジェニックマウスを作製することである。発現特異性を確保するため外有毛細胞特異的モータータンパク質であるPrestinのプロモーター領域27.3 kbpをクローニングし、hDTR cDNAと連結した導入遺伝子を構築してOHC-TRECKマウスを5系統作製した。得られたOHC-TRECKマウスに50 ug/kgのDTを投与し、内耳蝸牛の免疫組織染色を行ったところ、2系統(#38および#53系統)で期待通り内耳外有毛細胞のみに障害が認められた。これらのマウスでは、内有毛細胞や支持細胞の形態は維持されていた。形態学的に外有毛細胞特異的な障害が確認されたことから、hDTRが外有毛細胞特異的に発現していることが推定されたので、平成24年度に行う予定であったhDTRの発現解析に先立ち、平成25年度に行う計画であったABRによる聴力測定を行った。これら2系統のマウスはDTの投与により8~32 kHzの音刺激に対する聴力が低下し、#38系統は聴覚閾値>70 dBの高度難聴を#53系統は聴覚閾値>100 dB完全難聴を示した。これらOHC-TRECKマウス2系統は順調に繁殖し、#38系統についてはホモ化に成功した。以上のように、平成24年度の目標であったOHC-TRECKマウスの作出・繁殖のみならず、平成25年度に行う計画であった聴力測定を行い、DT投与により誘導的に難聴を発症させることが可能であることを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、DTを投与することにより任意の時期に外有毛細胞を除去できるマウスモデル(OHC-TRECKマウス)2系統の樹立に成功した。今後は、まず成体マウスを用いて外有毛細胞に障害を与えるための至適条件を検討し、障害様式を内耳組織の免疫染色および電子顕微鏡で詳細に解析する。DT投与後の聴力への影響は、ABRによる聴力測定、および歪成分耳音響放射(DPOAE)による外有毛細胞の直接的な反応の測定により電気生理学的に解析する。 また、生後初期のTgマウスにも適用できるか否か、あるいは妊娠マウスにDTを投与することにより胎仔の細胞にも適用が可能か否かを検討する。適用可能であることを確認後、胎仔、生後初期および成体マウスのDT投与前後における遺伝子発現をマイクロアレイによって解析し、内耳外有毛細胞の分化成熟過程に関与する分子や機能の維持に必須な分子を探索する。 本研究で樹立したTRECK-OHCマウスにDTを投与して誘発する聴覚障害は、突発性難聴のモデルにもなり得る。成熟が完了し、加齢性難聴発症前の6~8週齢のTRECK-OHCマウスにDTを投与して外有毛細胞を傷害し、突発性難聴の状況を作り出す。突然聴力障害を起こしたマウスがどのような反応を示すか行動解析を行い、運動量・社会行動・攻撃性・情動等に与える影響を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、OHC-TRECKマウスを樹立し、内耳外有毛細胞におけるhDTRの発現を確認する予定であったが、DTの投与により形態学的に外有毛細胞が特異的に欠損していたことから、hDTRの特異的発現が強く示唆されたため、平成25年度に行う計画であった聴力測定を優先して行った。そのため次年度に使用する予定の研究費が生じた。平成25年度以降は、それを合わせて、OHC-TRECKマウスの維持・繁殖、OHC-TRECKマウスにDTを投与して外有毛細胞に障害を与えた場合の組織学的解析・聴力測定・マイクロアレイ解析・生化学実験・分子生物学実験・行動解析を遂行するために使用する。すなわち、抗体、酵素、一般試薬、手術器具およびピペット・チップ・等プラスチック製品の購入やマウスの飼育費に使用する。また、学会発表のための学会参加費および旅費、論文投稿のための英文校閲費用および掲載料に使用する。
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