研究課題
生体組織の血流速あるいは弾性的性質のイメージングを行う手法の確立のために、本年度は、相互相関計測が可能で、さらに同時に空間的に異なる位置で測定することができる多チャンネル相関計測システムを試作した。FPGA(field-programmable gate array)を用い2.08nsのサンプリングタイムで4チャンネル(あるいは1.04nsで2チャンネル)の光子の検出タイミングを同時に記録し、そこからそれぞれのチャネルの自己相関関数とそれらのチャンネル間の相互相関関数をソフトウエア的に計算するシステムを完成させた。検出器を選択することにより相互相関計測をせずとも100ns程度までの時間分解能で自己相関計測が可能であることがわかった。さらに1.04nsのサンプリングで、ピコ秒パルス光に対する時間応答の計測が可能であることも確かめた。しかし、ピコ秒パルスを用いた時間応答測定と光子相関測定の同時測定では、相関関数の振幅が得られなかった。これは、ピコ秒レーザーがトランスフォームリミットの光パルスでないこと、モードロック光と言っても理想的に各縦モードの位相が安定していないことによるのではないかと推定される。この4チャンネル測定システムにより、イントラリピッド溶液の計測を行った。光源に対し異なる距離に検出ファイバを設置し、それぞれの検出ファイバにはコリメータレンズ系を入れた。それによる非接触測定では、溶液からの距離を離すと表面の反射などによると考えられる強いアーテファクトがデータに重畳した。このアーティファクトはレンズ系と対象物を接近させると減少し、この影響を無視するためには、ほとんど接触する距離まで近づける必要があった。入射検出間距離が30mm程度の距離までは良いS/Nであった。相関関数の時間遅れが大きな部分で、時間軸のスケーリング則に理論との食い違いが見られた。人上腕でも計測した。
3: やや遅れている
当初予定していたより、多チャンネル計測システムの構築に時間がかかった。特に、FPGAを用いたシステムを初めて導入したため、その回路設計とその検証に時間を要した。しかしながら、今までよりも極めて安価で高性能な光子相関計測システムを構築することができることが分かり、イメージングを行うために必須な技術の一つをクリアしたと言える。全体計画のうち実験による実証部分が、これらの構築に要した時間のため十分ではなく、その意味でやや遅れていると自己評価を行った。
多チャンネル化されたシステムを持ちい、動きに不均一性のあるモデルファントムを計測し、相関関数の変化を解析する。特に、比較的小さな領域に散乱体溶液を入れる一方、全体はゲルに散乱体を入れ遅いゆらぎを持つようなファントムを構成することにより、組織の中の一部に動きの早い部分があるような状況を模擬する。この解析には過去に行った、不均一な吸収体が時間応答関数に対しておよぼす影響の解析を用いる。吸収体を通過する際の部分光路長などを用いて、動きのある領域の定量化につなげて行く予定である。また、現在ある検出チャンネルのうち2つのチャンネルの検出器の特性はあまり良くないため、ここを新しくすることにより、同時測定の精度をあげたい。時間応答の計測を同時に行うことが難しかったため、入力をパルス光と単一モードCW光の2系統を切り替え、時間応答関数と相関関数の計測を同じ光学系で別々に行うことにより、定量化するために必要な距離情報を得たい。光量を増加させることによりより長い距離での測定も試みたい。近年の論文では、多モードファイバを用いた検出も試みられていることから、本研究にも導入し、S/Nが改善するのか確認したい。多チャンネルの計測システムに関しては、解説記事で紹介する予定である。
システム構築に時間を要し実験の進行がやや遅れたため。システム構築の上で残る光検出器また時間分解計測のための分岐光学系などに用いる予定である。
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