研究課題/領域番号 |
24500508
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒井 晃二 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20379027)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 磁気共鳴像 / 拡散強調画像 / 脳 / 側脳室 / 温度 |
研究概要 |
本研究は、一般的に臨床のルーチン測定として用いられているMRI測定方法の一つである拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Image: DTI)を解析することにより「脳深部温度」という新たな鑑別項目を提供することを目的とする。ファントム測定によりDTI撮像パラメータの最適値を得て、それらを臨床測定に適用する。さらに、データ解析手法を開発し、適正な値を提出して脳内の代謝や病態把握のための新たな指標を温度という馴染みやすい値で提供する。 平成24年度は、ファントムによる基礎的検討および症例収集を主に行った。具体的には、蒸留水および人工脳せき髄液ファントムを作成し、DTIから得られた温度測定結果を実測値と比較して、その精度を検証した。蒸留水ファントムは、自由拡散条件とし、DTI測定およびMR Spectroscopy(MRS)測定における適正測定パラメータの選定に用いた。その結果、DTIから得られた温度測定結果では磁場の安定性やノイズの低減が必要であり、人工脳せき髄液においては、最大で1.2℃程度の誤差が観測された。一方、MRSでは誤差0.2℃以下という高精度で結果を得ることができた。DTIにおける誤差の検証には、MRIを構成する要素ごとに更なる要因分析が必要とされた。精度検証がさらに必要な手法ではあるが、トラウマ患者および多発性硬化症患者については、DTI温度計測を脳深部温度計測に適用し、健常者と比較して有意な差を観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では4つの目的とそれを実現する4つの方法を設定しているが、平成24年度には、主に以下の目的1に 対する方法1を実施した。 (目的1)ファントムによる基礎的検討 (方法1)水ファントムを作成し、DTIの結果をMRSを参照として、その精度を検証する。(水ファントム)自由拡散ファントム、制限拡散ファントムの作成。(DTI測定)最適測定パラメータの選定。(MRS測定)最適測定パラメータの選定。水ファントムは、蒸留水、NAAなどの脳代謝物、およびpH調整剤により構成される。「自由拡散ファントム」には一般的な実験用ポリプロプレンボトルのみを用い、「制限拡散ファントム」には10μmの溝で構成されるシリコン基板を加工した板を内包した実験用ポリプロプレンボトルを用いる。(DTI測定)における検討パラメータの検討:繰り返し時間(TR),エコー時間(TE),MPG印加間隔(⊿)、MPG印加時間(δ)、スライス厚、スライス間ギャップ、面内解像度、磁場照射軸数。評価値:繰り返し安定性、計測時間などで実用に最適な値を評価する。(MRS測定)における検討パラメータ:TR,TE,⊿、δ、スライス厚、スライス間ギャップ、面内解像度、測定対象化合物(脳内物質)。評価値:繰り返し安定性、計測時間などで実用に最適な値を評価する。方法1において制限拡散ファントムの作成を予定したが、実験上の成果は得られていない。一方、病態への適用が進んだため、達成度は②と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の達成度における(目的1)に加えて、以下の目的と方法を実施する予定である。 (目的2)健常者への応用。 (方法2)目的1により作成された脳深部温度測定手法を用いて、健常者の温度測定を行う。加齢に伴う変化の観察など目的とする。測定値検証には、耳鼓膜温度等を用いて比較を行う。健常者の場合、耳鼓膜温度よりも平均0.5-1.0℃程度脳深部温度が高いことが予想される。 (目的3)自動算出方法の検討。 (方法3)目的2の結果を用いて、有効深部脳温算出対象領域(側脳室)の自動抽出手法を検討する。これと併せて解析プログラムを整備する。 (目的2)達成のため、(方法2)を実施する。さらに、(目的3)で作成した手法をソフトウェアとして作成する。(目的4)は、症例収集を開始する。なお、有意な数の症例収集には膨大な時間がかかる可能性があるが、1年目で収集計画を作成し、2年目から収集を開始できるようにする。検討項目:深部脳温算出ソフトウェアの開発、健常者への適用、症例収集を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年度には、(目的3)の深部脳温度ソフトウェアの完成と合わせて、(目的4)を実施する。 (目的4)は病態把握への応用である。方法は、Moyamoya病、脳溢血、脳外傷、水頭症、小児病変等の患者データに当該方法を適用することである。それぞれ、20から50例程度のデータセットを用いて、正常例と比較することにより、病態把握のための知見を得る予定である。
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