研究課題/領域番号 |
24500512
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
香川 明男 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00093401)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水素吸蔵合金 / 癌細胞 / 正常細胞 / パラジウム |
研究概要 |
本年度は,生体細胞に対して水素の放出が可能であり,その効果が確認されているPd-5at%Ni合金を主に用いて,次の3課題について研究を行った。1)粉末状試料の癌細胞死滅効果:バルク試料と粉末試料の水素吸蔵・脱蔵特性を比較したところ,粉末試料の吸蔵・脱蔵速度の方が遅いことがわかった.これは,粉末試料には切削により板状試料よりも大きい加工ひずみが生じ,水素の拡散を阻害したためであると考えられる.細胞実験においては,水素を吸蔵した合金試料(H+)のみに癌細胞の死滅効果が見られた.また,蛍光試薬により過酸化水素が検出されたことより,以下の3)の機構で癌細胞が死滅したと推考される.さらに,水素吸蔵合金試料をメディウム溶液に半年浸漬した後の溶液のICP分析よりニッケルイオンの溶出が見られた。2)水素吸蔵合金アクチュエータのマイクロデバイス化:水素吸蔵合金表面へのPdコーティングにより,また銅メッキ厚が薄いほど,曲げ変形速度は増大した。幅方向の変形の影響を受けない短冊状試料の臨界アスペクト比は約5であり,導入圧の調整により変位の制御が可能であることを明らかにした。さらに,サイクル特性は初期に変位量の減少が見られたが,サイクル数の増加とともに一定になる傾向が見られた。これより、マイクロ化の指針が得られた。3)癌細胞の死滅機構の解明:蛍光試薬を用いて,癌細胞の死滅機構の検証を行った。それより,次の機構が明らかになった。1)まず,水素吸蔵合金からの水素ラジカルと溶存酸素の反応により過酸化水素が細胞外で発生し,それが細胞中に取り込まれる。2)正常細胞では酵素(カタラーゼ)により過酸化水素は分解されるため影響を受けないが,カタラーゼ活性が低い癌細胞では過酸化水素あるいはそれから生じるヒドロキシルラジカルが癌細胞を死滅させる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の3つの課題のうち,(1)粉末状試料の癌死滅効果,(2)アクチュエータのマイクロ化,(3)の癌細胞の死滅機構についてはほぼ当初の目標通りの成果が得られたが,対象とする癌細胞の種類はまだ少なく,また,ニッケルの溶出の影響が明らかとなったことから,今後,合金組成の再検討が必要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
動物実験による癌細胞死滅効果の検証を目指して生体細胞に近い構造をとる3D細胞培養において、癌死滅効果を検証する。また、水素吸蔵合金アクチュエーターの回転特性とその制御法を検討するとともに、マイクロデバイス化を図り、HASアクチュエータを利用した患部への試料の導入法を確立することにより低侵襲型ピンポイント癌治療法の開発を目指していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に得られたパラジウム系水素貯蔵合金の水素吸蔵・放出特性に関する知見および生体細胞への水素放出実験により得られた水素の癌細胞死滅効果に関するデータから,まず,溶液への溶出が見られたNiの代替元素として、生体適合性の点から人体での許容量の大きいFeを選定し,Pd-Fe合金の癌細胞ならびに正常細胞への効果を細胞実験により明らかにする。それより,正常細胞への影響を最小限にとどめ,癌細胞のみを死滅させるために最適な合金組成ならびに試料形状を選定する.また,癌細胞死滅機構に関する研究から明らかとなった過酸化水素の発生を種々の癌細胞と正常細胞を使った細胞実験により検証するとともに,過酸化水素溶液の直接投与実験を行い,水素吸蔵合金を利用した手法との比較を行う。さらに,動物実験による癌細胞死滅効果の検証を目指して生体細胞に近い構造をとる3D細胞培養において,癌死滅効果を検証する。次に,水素吸蔵合金(HAS)アクチュエーターの回転特性とその制御法を検討するとともに,曲げモジュールと組み合わせたユニバーサルアクチュエータの試作と動作特性の評価を行い,そのマイクロデバイス化を図る。また,ピンポイント治療のための水素貯蔵合金アクチュエーターに癌治療用の水素貯蔵合金を組み込んだカテーテルを試作し,動作特性の評価を行う.得られた成果をもとに,HASアクチュエータを利用した患部への試料の導入法を確立することにより,低侵襲型ピンポイント癌治療法の開発を目指していく。
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