Pd-Fe系水素吸蔵合金はPd-Ni合金より生体適合性が優れており,Pd-3~7at%Fe合金はFe濃度の増加とともに水素吸蔵量、吸蔵速度が減少し,短時間側での放出速度はFe濃度によらずほぼ等しいことがわかった。細胞実験においては,Pd-7at.%Fe 合金試料を設置後48時間経過した癌細胞(HeLa)の生存率は約72%、と正常細胞(MDCK)の生存率は約37%であった。合金試料周囲約1.5 mmの範囲でHeLaの死滅が確認されたが,MDCKも培養容器から剥離して死滅(アノイキス)していることがわかったアノイキス対策として,あらかじめ大気中に60分間水素を放出したPd-7at.%Fe合金試料を細胞に設置したところ,HeLaへの死滅効果を失わずMDCKの剥離を抑えることが出来た。また,Pd-5at.%Fe合金を設置して,48時間後の生存率を測定した結果,あらかじめ水素を放出させずに細胞上に設置してもMDCKは死滅せず,HeLaの生存率はPd-7at.%Fe合金より低くなった。以上より,Pd-Fe合金を用いて癌細胞を選択的に死滅させる組成はPd-5at.%Feであり,正常細胞に影響を与えず,癌細胞のみを死滅させることができることがわかった。上記の癌治療用HSA試料を患部へ誘導するためのマイクロアクチュエータにおいては,ポリマーチューブの利用とシリコーンコーティングによるカプセル化を検討した。ポリマーチューブにHAS試料5枚を積層させた場合はポリマーチューブの変形抵抗に比して水素2気圧下での変形の駆動力は不十分であることがわかった。一方,シリコーンコーティングによるカプセル化アクチュエータは2気圧下で試料の変形は得られたが,シリコーンカプセルの膨張が起こり,曲げ変形を阻害することがわかった。
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