研究課題/領域番号 |
24500513
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道工業大学 |
研究代表者 |
北間 正崇 北海道工業大学, 医療工学部, 教授 (50285516)
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研究分担者 |
清水 孝一 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (30125322)
浪田 健 北海道大学, 情報科学研究科, 博士研究員 (10571250)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 光散乱 / 内シャント / 血管透視 / 点拡がり関数 / 光拡散 / シャントトラブル / 光透視 / 医用画像 |
研究概要 |
腎不全患者が体外循環にて透析を行う際,十分な血流量を確保するために,前腕部に造設した内シャントを用いることが一般的である。しかし頻回の穿刺や乱流によるストレスが原因と考えられる狭窄や閉塞などの血管異常が多く発生しており,日々の管理による早期発見が重要となる。これに対し本研究は無侵襲かつ小規模で内シャントの状態を観察できるシステムの開発を目指すものである。本年度は,シミュレーションに基づく理論解析による最適計測条件の検討,基礎的な計測システムの構築,システムの評価を行うために内シャントを模した評価ファントムの作製を行った。また計測画像の鮮明化を目指した画質改善アルゴリズムについて検討した。具体的な研究成果は次のとおりである。 1.モンテカルロ法に基づき,前腕の内シャント部を模擬したシミュレーションモデルを構築した。これに生体の光学パラメータを適用し,内シャントの存在する位置や深さ,血管径の変化に伴う検出透過像を評価することで,光源配置や検出条件を見出すことが出来た。 2.シミュレーションによる解析から得られた最適な計測条件を基本に,高感度赤外線計測用CCDカメラとLEDアレイ光源,前腕部固定機構および画像処理装置からなる計測システムを構築した。 3.計測システムの評価を行うために前腕部内シャントを模擬したファントムを作製し,実測を試みた。結果として一般的な内シャントの存在範囲における血管像取得の可能性を示すことが出来た。 4.内シャント透視像の鮮明化を目指して,点拡がり関数(PSF)を用いたデコンボリューション処理による散乱抑制について検討を行った。その結果,実測によるPSF取得の可能性を示すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画に従い、光拡散理論に基づくコンピュータシミュレーションの検討結果に基づいた計測システムの構築と、システム評価のための前腕部模擬試料の作製を行っており,以下の2点は概ね計画どおりに実施した。 1.モンテカルロ法を用いた前腕部内シャントのコンピュータシミュレーションモデルの構築と光伝搬解析による光源位置と検出画像の評価。 2.3波長のLED光源,高感度CCDカメラを基本とした前腕部内シャント計測システムの構築と前腕部模擬試料を対象とした計測システムの評価。 また,以下の2点についてはやや遅れがある。 1.前述の生体内血管を模擬したシミュレーションプログラムにおいて、前腕の内シャント部を単純化したモデルは構築できたが、血管走行の分岐等を想定したモデルの作成に時間を要している。 2.内シャント計測システムにおいて、複数の光源を切り替えながら使用することによる多波長化は実現できているが,予定していた変調発光による多波長同時計測はまだ実現できていない。これについては現在進めているシミュレーションの解析結果に基づく計測システムの最適化と、光源をLEDからレーザーダイオードへの変更を優先しており、その後に実施することとなる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果を受けて,今後は以下の項目について研究を推進することで内シャント光イメージングシステムの開発を目指す。 1.内シャント造設部の詳細な拡散光伝播を解析するとともにコンピュータシミュレーションを継続し,血管内構造のイメージングに適したパラメータの導出法について検討を行う。 2.光散乱により内シャント透過像の空間分解能が劣化する問題に対して,今年度に適用の可能性が示された点拡がり関数(PSF)の導入を検討する。PSFは観測部の深さにより変化するため,内シャント造設時に蛍光マーカーを埋め込み,内シャント観察時にはマーカー部の観測画像から求めたPSFを用いることで光散乱に起因する画像劣化の抑制が期待される。 3.多波長同時計測システムを構築し,吸光度調整が可能な前腕部模擬ファントムを対象に吸光度変化の描出を試みる。これにより生体における酸素化状態変化に伴う吸光度変化描出の可能性を探る。また,健常者の前腕を対象に同様の計測を行い,その結果を基にシステム構成や血管描出アルゴリズムの最適化を図る。 4.内シャント計測の諸条件が整った後,計測系のdownsizingを図る。これにより,透析患者に不安を与えることのない計測系を構築し,病院内での計測を行うことで内シャントの状態観察の可能性を検討する。 5.透析患者の内シャント像を定期的に記録して画像データベースを構築し,経過観察が容易に出来るようなアプリケーションを開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に導入予定であった複数波長の光源を変調駆動するシステムについて,シミュレーション結果に基づく計測システムの最適化に時間を要したことから,基本計測システムの構築に止まった。その結果,複数光源の同時計測を目指した変調駆動システムの導入が先送りとなり,今年度の研究費の一部を次年度に繰り越すこととなった。次年度は光源を高輝度レーザーダイオードに変更した後,改めて新光源に対応した変調システムを導入する計画である。また当該年度に支出予定の研究費は,機器(レーザーダイオード,画像処理装置等)や消耗品(模擬試料作製費,計測回路作製費等),研究成果発表旅費等に使用する予定である。
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