研究課題/領域番号 |
24500513
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研究機関 | 北海道科学大学 |
研究代表者 |
北間 正崇 北海道科学大学, 保健医療学部, 教授 (50285516)
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研究分担者 |
清水 孝一 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (30125322)
浪田 健 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10571250)
加藤 祐次 北海道大学, 情報科学研究科, 助教 (50261582)
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キーワード | 光散乱 / 内シャント / 血管透視 / 点拡がり関数 / 光拡散 / シャントトラブル / 光透視 / 医用画像 |
研究概要 |
人工透析を行う際,患者に造設した内シャントは経時的に狭窄や閉塞などの血管異常が多く発生しており,日々の管理による早期発見が重要となる。これに対し当研究室では,光を用いることにより無侵襲かつ小規模で内シャントの状態を観察できるシステムの開発を目指している。本研究では特に内シャントの光透視像から血管内形状変化を抽出することに主眼を置いている。本年度は,昨年度までに改良を重ね最適化してきた計測システムを用い,前腕部血管の構造を模擬した評価ファントムにより血管内形状の描出に向けて計測アルゴリズムの検討と実測による評価を行った。また,前年度に適用の可能性を示した点拡がり関数(PSF)を画質改善アルゴリズムに組み込み,画像の鮮明化を試みるとともにその効果を明らかにした。具体的な研究成果は次のとおりである。 ・前腕部ファントムに血管構造として血管壁を加え,狭窄や閉塞の過程を模擬できるようにした。この試料を用いることで本計測原理および計測システムの血管内構造変化描出における有用性を評価できた。 ・光透視像を鮮明化し,血管内径変化を抽出することを目指して,前年度に可能性が示された点拡がり関数(PSF)を利用した散乱抑制法の改良を行った。その結果,従来の高域強調フィルタリングによる手法よりもPSFを用いたほうが光透視画像の画質改善に有効であることを明らかにした。 ・光散乱抑制後の血管透視像から血管内径の変化を抽出するアルゴリズムを新たに開発し,前腕部ファントムを対象とした計測で有用性を明らかにした。 ・PSF適用の画質改善効果をより確実にするため,内シャント造設部に既知形状の蛍光マーカを埋め込み,PSFを実測することで血管透視像の評価を行った。その結果,ファントムを対象とした基礎的検討ながら,その有用性を示すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度に予定していた研究実施計画のうち,以下の点については概ね計画どおりに実施した。 ・モンテカルロシミュレーションに基づく前腕部伝播理論解析について,前年度のモデルに血管内構造を加え,実測による検出画像の評価手法について検討した。 ・血管内構造描出アルゴリズムの検討について,血管透視像から血管内径の経時的変化を描出可能な手法を提案し,その有効性を示唆した。 これらの検討過程で以下の点が問題となった。提案手法を臨床に適用する場合,血管内径変化を1mm以下の精度で求めることが望まれる。これは計測条件やシステムのみならず,血管透視像改善アルゴリズムの見直しが必要であった。そのため,当初の計画では十分な期間を予定していなかった,ファントムを用いた基礎実験に重点を置き,他の計画に優先して進めていることが達成度の遅れている主要因である。この点についてはPSFを効果的に用いる手法で改善が見られたことから,今年度は当初の目標を実現すべく計画を進める。現時点では特に以下の点について遅れがある。 ・多波長光源を組み込んだ計測システムにおいて,複数波長の同時計測は実現できていない。光源のレーザ化を含めて構築を早期に行う予定である。また,内シャントの生理的状態変化と狭窄の構造を模擬できる試料を作成中であり,この試料を対象として様々な患者の状態に即した計測を行い,臨床利用への可能性を高める。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの成果を受けて,今後は以下の項目について研究を推進することで内シャント光イメージングシステムの開発を目指す。 1.導入が遅れている多波長同時計測システムを構築する。また,現計測システムの検討課題である照射光量の不均一性を改善すべく,光源形状を考慮し選定する。 2.血管内肥厚の構成要素は患者毎に異なる。光学的特性にも差異が現れることから,幾つかの組織性状を模擬した試料を作製し,複数波長の計測による描出画像を比較することにより血管内径変化の描出精度を高める。 3.血中ヘモグロビンの吸光特性を反映する光源波長を選択的に照射し,血管透視像の波長間演算を行うことで透析前後における血中の酸素化状態変化の描出を試みる。この結果を基に血管描出アルゴリズムの最適化を図る。 4.健常者での検討を経た後に透析患者を対象とした臨床計測に最適化したシステムを構築し,血管像描出アルゴリズムを組み込む。また,ベッドサイドでの簡易な計測を実現するために計測系のdownsizingを行う。これにより病院内で透析患者に対する計測を行うことで内シャントの状態観察を目指す。 5.内シャント像を継時的に観察することで異常の早期発見を目指す。これには画像データベースを構築し,経過観察が容易に出来るようなアプリケーションが必要であるため,その開発を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では,多波長光源を使用することで内シャント部の形態的,生理的変化を同時に取得可能なシステムの構築を初年度に行う予定であった。しかし対象部位の光学的特性を抽出するアルゴリズムと空間分解能向上の検討に当初の予定以上の時間を要する必要があると判断し優先的に遂行している。このことから,前年度までに導入する予定であった複数波長計測システムのレーザ光源(現在は多波長LEDを使用)および駆動機構等の購入を次年度に繰り越すこととなった。なお血管部透視像の画質改善についてはPSFの適用法に検討を加え,その効果を高めるとともに,血管内径抽出アルゴリズムを提案しその有用性を明らかにできたことから,今後,生理的変化の描出を目指し,当初計画に沿い予算を執行する予定である。 研究計画について,その重要度から一部の取り組み順を入れ替えたことに伴い,前年度までに購入予定だった複数波長光源および駆動機構を今年度に導入する。また共同研究施設や臨床現場等でデータ取得した直後に処理・評価することを目指し,新たに高性能ノートPCを導入する。 当該年度に支出予定であった研究費は,機器(レーザーダイオード,ノートPCおよび画像処理装置)や消耗品(光学部品費,模擬試料作製費,計測回路作製費等),研究成果発表旅費等に使用する予定である。
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